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「卒業おめでとう、名前」

桜を模したピンクのホログラムが舞う中、大好きな二人が私の高校卒業を祝ってくれている。

「伸兄!仕事だったんじゃ...」

紺のレイドジャケットが脱がれていくのを見て思わずそう聞いた。



口煩い事を除いては、自慢の兄だ

正しくは兄ではない

私は幼い時に両親を亡くした。
貧しくて明日すら危うくて、それでも我が子には手をかけられなかった故の心中。
第一発見者でもなければ、幼過ぎて親の顔すら覚えていない私にとっては、正直実感がない。

初めは親戚の家にお邪魔したが、それこそ文字通り“邪魔”だったのだろう。
それに見かねて私を引き取ってくれたのが、生前の両親と繋がりがあった征陸さんだった。
その日から征陸さんが‘お父さん’になり、一つ年上の‘兄’、伸兄が私の家族となった。

出会ったばかりの時は背丈も体格もさほど変わらなかったのに、今ではスーツを完璧に着こなしている
年は一つしか変わらないのに、私にはグッと大人に見えた





「お前は気にしなくていい。必ず来る、俺と狡噛が卒業した時にそう約束しただろ。」




それは丁度一年前、二人が監視官の適正判定を受けた日。
同時に私もそれを目指し始めた日。






「名前、おめでとう」


「あ....」




伸兄と同じように、1年前までとは全く変わった姿に心臓が跳ねる




「.....名前?」

「ぇ、あ、ありがとうございます」

「ギノから聞いたよ、監視官目指したんだな」

「あっいや、その.....はい.....」



目指した理由の張本人に言われると、なぜかイタズラがバレた様な気持ちがする



「もう結果出てるんじゃないのか」

「うん...ダメだった...。伸兄は分かってて聞いたでしょ」

「お前は色相が濁りやすいからな。監視官なんてろくに務まるはずがない」

「おいギノ!.....名前、あいつはお前が危険な仕事につくのが心配なだけだ。だから、

「なっ、狡噛!勝手に余計な事を言うな!」

「あぁもう!私も無茶だって分かってたから!狡噛さん、応援してくれてありがとうございました」








少しでも貴方に近付きたくて

少しでも貴方と一緒に居たくて

貴方の見る世界を見たくて















狡噛さんとは、伸兄と一緒に出会った。


ある日の休み時間
次の授業に向かう最中、伸兄が数名の男子生徒に絡まれているのを見た

あれ程、真面目過ぎると嫌われるよって言ったのに

助けに行こうか迷っていたところに、別の男子生徒が来てその場を抑えた

絡んでいた数名が居なくなったのを確認してから、私は伸兄と助けてくれた男子生徒の元へ駆けた


「あ、あの!ありがとうございます!私、ただ見てることしか出来なくて....」

「....お前の彼女か?」

「なっ!違う!幼馴染みだ!....まぁ家族みたいなものだが」

「狡噛慎也です」



差し伸べられた右手に自らのを重ねると同時に、聞き覚えのある名前に思考する



「....狡噛慎也先輩....?あの学年1位の.....」

「....君もか、さっきギノにも聞かれたよ。あっ、先輩って呼んでくれたから年下だと思ってタメ口にしたけどいいか」

「はっはい!一つ下です、名字名前です」

「....おい名前、次授業だろ。遅刻するぞ」









この日から伸兄と3人、よく時間を共にした

一緒に居れば居る程、自分の気持ちに気づいていった

もちろん伸兄にも相談した

“シビュラから適正判定が出ない限り反対する”と言われた



そんなの分かってる

今の社会はシビュラが全て

こうして職業適正でも、なりたかった職、公安局刑事課の監視官はシビュラに却下された
伸兄の言う通り、メンタルも弱く色相も濁りやすいのが原因だろう
‘お父さん’が執行官に降格した時、その知らせを聞いただけでグリーンまで濁り、数日ショックで何もやる気が起きなかった

こうなるといよいよ、パートナーの適正診断なんて受けたくない
またシビュラにノーと言われそうで怖い
もしそうなったら希望すら無くなるのだ









「佐々山!写真撮ってくれないか」


狡噛さんにそう呼ばれて、今では珍しい大きいレンズのカメラを片手に男性がこちらを向く


「この子がギノ先生の妹ちゃん!? 可愛いじゃん!」

「だから妹じゃない!」







伸兄と狡噛さんに挟まれて、カメラのレンズに笑顔を向ける準備をする








肩にそっと置かれた手から、布越しに薄ら狡噛さんの体温を感じる


「撮るよー!」


緊張と嬉しさを必死に隠して笑う



「イイ感じに撮れたぞ、ピヨ噛」

「ありがとな」









もっとふさわしい人になったら
ちゃんと気持ちを伝えよう



だから今はまだこのままで




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