▼ 272

あーもう....

一人でいるからか
悪い方向にしか考えられない

信じてないわけじゃないけど、こんな決定的な生々しいものを見つけたらさすがに....

なんで....?
本当に?
誰と?
いつ?

....やっぱりよく一緒にいた常守さん...?
でもこういうの着そうな印象は....
....実は伸兄の趣味で誰かに着てもらったとか?

いやまだそうと決まったわけじゃ....

これを見つけてから何故か動けなくなってしまって
日が沈み徐々に暗くなっていった部屋で、ただそのあまりにも官能的な下着を目の前に座り込んでいた

真実が何であれ受け入れるつもりだけど....
趣味だろうが浮気だろうがショックは隠し切れない

....狡噛さんとの事、伸兄はこんな思いだったのかな....
そう思うと、問い詰めるのも悪い気がしてしまう


「ダイム...」


私の様子を心配してか、すり寄って来たダイム

なにやってんだろ....
高校の制服を着た30近い潜在犯がセクシーランジェリーを前に項垂れてるなんて
馬鹿みたいじゃん....




そろそろダイムにもご飯あげないと

と顔を上げようとした時だった



『名前、....いないのか?』


寝室の外から聞こえて来た玄関の開く音、革靴の足音、私の名を呼んだ声
もうそんな時間....?

明らかに近づいて来ている気配の方向に目を向けて、どんな顔をすればいいのかと思考する

どうしよう

悲しむべき?
気にしないべき?





「....どうした....?」


その言葉と共に部屋の明かりを点けられ、突然の眩しさに眩む
手には公安局の段ボール
何か買った物が届いたのかな


「....ちょっと座って」


不機嫌な私の声に素直に私の横に座った伸兄は、どうもやっぱりそんな事をするようには....

いいよ
聞こう
このまま見なかった事には出来ない


「まだその制服着れ

「ねぇ、怒らないし絶対受け入れるから、」


そう私は背中に隠していた例の下着を手にして、落ち着こうと努力する口調とは裏腹に力強くそれを伸兄の胸に押し付けた


「....説明して」

「何を、っ....」


転がるように膝に落ちた黒い布を、指輪が光る左手で拾い上げた伸兄はそのまま固まった
瞬きが速くなって、唇も半開きのまま
焦っているような不規則な呼吸が伝わって来る

....私が最も恐れていた反応

まさか、そうなの....?


「....なんで何も言わないの」

「これは....その....」

「早く言ってよ!」


怒らないと言ったのに、思わず声を大きくしてしまう
隠すの?
誤魔化すの?
私を傷付けない嘘でも考えてるの?
その方がよっぽど辛いのに


「ちゃんと、受け入れるってば....だから教えてよ....!」

「....名前、泣くな、俺が

「触らないで!....まずは教えて」


こういう時無駄に意地を張ってしまうのが私のダメなところなのは分かってるけど、どうして伸兄が辛そうな顔するの?

....もしかして


「....抗えなかったの?」

「....俺にはどうしようも出来なかった」


....否定しないんだ
自分から疑って迫っておいても、伸兄なら否定してくれると思ってた
なのに、"どうしようも出来なかった"って....

....はぁ...受け入れなきゃ....
だって、こんなに愛してる
潤んでいく視界に映るぼやけた表情から目を逸らして、なんとか自分の心を整理しようと制服のスカートを握ってみる


「なんで....言ってくれなかったの。このままずっとバレなきゃいいって思ってたの」

「....お前に不必要に傷付いて欲しくなかったんだ」

「....なにそれ!?そんな理由で隠してたの!?信じらんない!伸兄だけは浮気なんてしないと思ってたのに!見損なったよ!」

「は...?待て、違う!」


この期に及んで今更....
いつの日かと同じように部屋を立ち去ろうとした私の腕を掴んだのは、勝てるわけがない義手の力
上手く調節された加減に痛みは無い
でも今はその優しさが私の感情を逆撫でした


「何が違うの!?言わなければ私が傷付かないと思ったんでしょ!?いいよ、一時の過ちくらい....狡噛さんは思い切り殴って良いって言ってたけど、私にはそんな事出来ない!」


最初から許すつもりでいたけど、私にも時間は必要
とりあえず一人になりたい
頭を冷やして来たい
ただそれだけなのに....


「勘違いだ!俺にはお前だけ

「言い訳なんて聞きたくない!もう離し

「離すわけないだろ!」


突如視界が遮られて、否が応にも安心感を受け取ってしまう体温に包まれる
それが余計私の涙を溢れさせて
なんで...
なんで....?





[ Back to contents ]