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「名前?大丈夫か?」




「また始まりましたよ、何なんですか?最近」

「名前さん、ここしばらくかなり体調が悪そうですね」

「須郷さん何か聞いてないんですか?」

「いえ、自分は何も」


宜野座さんが髪を伸ばし、案外似合っているポニーテール姿に慣れて来たこの頃
一係全員が寄せ合って見つめる先は、口元を押さえ顔色を悪くする妻に寄り添う夫の姿
そして


「すまない、少し出て来る」

「分かりました....」


名前さんの重そうな体を支えながら共にオフィスを出て行く宜野座さんも、もう日常茶飯事
確かちょうど2週間前くらいからだったかな
その頻度は上がっている気がする

心配になって休みを取るかと提案してみても、宜野座さんは"もう少し様子を見させてくれ"とだけ
唐之杜さんのところにも相談は来ていないらしい

もし何か病気なら早く手を打つべきなのに....


「仕事に支障を来しています。先輩、いつまで黙って見てるつもりですか」

「でも本人は大丈夫だって言ってるから....」

「大丈夫なわけないじゃないですか。この間の分析室での事、どう考えてもおかしいですよ」




そう
先週あたり、捜査の打ち合わせを唐之杜さんも交えて分析室で行っていた時の事

名前さんは早々に俯き始めて、宜野座さんのスーツの袖をずっと掴んでいた
それに対して宜野座さんも何か言葉を掛けていたみたいだけど、私が見て取れたのはただ首を横に振った青白い顔
そこにいた皆がその様子を気になっていた
でも"続けてくれ"と放たれた声に誰も何も言えなくて

そうしてしばらく経った時


『すぐ戻る!』


突然慌てて轟かせたような声で足早に名前さんを連れて分析室を出て行った


『名前ちゃん、ちょっと変だったわよね?』

『数日前からすごく体調が悪そうで....』

『心配ね....大事じゃなければいいんだけど』


そんな会話をタバコに火をつけながら交わしてくれた唐之杜さんは医師免許を持ってる
何かあったらすぐに対応は出来ると思うけど、本人達が明かそうとしない点に、もしかしたらかなり重大な事なんじゃないかと....
....実は癌か何かが見つかって私達に心配をかけさせたくないとか

そして言葉通り20分程して戻って来たのは宜野座さんだけ

それからと言うもの、名前さんは何故か分析室に立ち入らなくなった
宜野座さんに"後で会議の内容は責任を持って伝えるから"とお願いされ、ダメだと却下する理由も無くて




「このままじゃいつか私達まで被害を被りますよ。任務中に急に倒れられたりしたら処置を施す時間なんてありません」


それは私も分かってる
でも名前のさんの事に関しては、宜野座さんの対応がハズレる可能性の方が低い
その思いからも中々強制的な決断に踏み出せないでいる


「唐之杜さんの見解はどうですか?」

「頻繁に吐きそうな様子だと伝えたら、胃腸炎かもしれないと言っていました。ウィルス性だと人に感染するそうです」

「感染!?まずいですよ先輩!」

「....唐之杜さんに繋げてもらえますか?」


感染症なら宜野座さんが絶対言ってくれると思うのに
それに一番近くにいて真っ先に感染しそうだけど、宜野座さんどころか誰も体調は崩していない

やっぱり別に理由が....


『はいはーい、どうしたの?』


画面に映し出された唐之杜さんは相変わらずタバコをふかしている
私はまだ口にする勇気は無いけど


「名前さんの事で、胃腸炎以外に可能性はありませんか?」

『名前ちゃんね....私は本人と全然会ってないから様子が分からないのよ。何か変わったことは無い?』

「変わったこと....皆さん何か気付きましたか?」

「....名前さんではありませんが、宜野座さんがコーヒーを辞めたと聞きました」

「コーヒーを辞めた?何でよ」

「自分には....休憩室でお会いした時に緑茶を購入されていました。いつもはコーヒーを飲まれている印象だったので、お聞きしたら辞めたと」


そう肩をすくめた須郷さんの発言にはちょっと引っかかるところがあった
コーヒー....
私のデスクにもさっき淹れて来たばかりのカフェオレ
もしかして今二人がこの場に居ないのはこれのせい...?


「....そう言えば常守監視官、最後に名前さんと会話をされたのはいつですか?」

「会話、ですか?」


あれ....?
宜野座さんとは今日も仕事の事で話をしたけど、名前さんは...?


「近頃は書類提出の報告も宜野座さんが代わりにされてますね」

「....先輩避けられてるんですか?」

「そんな心当たりは無いんだけど....」


私何かしたかな...
少し前に一緒にランチしたばか


「に、妊娠...かも」

「...え?」

『あはは!今の翔君?』




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