2.夏の破片


← 12/31 →



「ようちゃんドタキャンしたら許さないかんね」
「へいへい、分かってますぅ」
「外暑いよ。ちゃんとお茶持ってる? ポカリじゃなくて大丈夫? 塩飴いる?」
「過保護か。いつにも増して優しいじゃん」
「こないだぶっ倒れたのもう忘れたの? え、頭大丈夫?」
「さり気にディスんな。んじゃ、またな」

 口を開いたと同時ににこっと笑って制された。鬱陶しいからこれ以上しゃべるなってことだろう。

 しかたなく口を閉じるとふっと笑ってポン、と頭に手を置かれた。

「……いってらっしゃい」
「うぃー」

 いってきます、とは返してくれない。この家を帰る家とは見てないんだろう。まあ、仕方ないけれど。

 たった今閉まった玄関の扉を前にほっと息を吐く。義理の兄は今日から仕事だ。

 一人になった玄関で大きく溜息を吐いて座り込んだ。

「陽一くん、元気そうで安心したわ」

 後ろを振り返ると母さんが顔を出していた。その何かが胸につかえたような顔に苦笑することしかできない。

 もう大丈夫だよ、なんて口が裂けても言えない。きっとそんなこと母もわかりきっているのだろう。

「ご飯、持って行ってくれる?」
「うん」

 差し出された盆を受け取ると、閉ざされた奥の和室へと向かった。

 大好きな姉ちゃんの大好きな旦那さん。俺の大好きなようちゃん。

「……俺が幸せにするよ」


← 12/31 →

目次
Top