2.夏の破片
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◇
「ようちゃんドタキャンしたら許さないかんね」
「へいへい、分かってますぅ」
「外暑いよ。ちゃんとお茶持ってる? ポカリじゃなくて大丈夫? 塩飴いる?」
「過保護か。いつにも増して優しいじゃん」
「こないだぶっ倒れたのもう忘れたの? え、頭大丈夫?」
「さり気にディスんな。んじゃ、またな」
口を開いたと同時ににこっと笑って制された。鬱陶しいからこれ以上しゃべるなってことだろう。
しかたなく口を閉じるとふっと笑ってポン、と頭に手を置かれた。
「……いってらっしゃい」
「うぃー」
いってきます、とは返してくれない。この家を帰る家とは見てないんだろう。まあ、仕方ないけれど。
たった今閉まった玄関の扉を前にほっと息を吐く。義理の兄は今日から仕事だ。
一人になった玄関で大きく溜息を吐いて座り込んだ。
「陽一くん、元気そうで安心したわ」
後ろを振り返ると母さんが顔を出していた。その何かが胸につかえたような顔に苦笑することしかできない。
もう大丈夫だよ、なんて口が裂けても言えない。きっとそんなこと母もわかりきっているのだろう。
「ご飯、持って行ってくれる?」
「うん」
差し出された盆を受け取ると、閉ざされた奥の和室へと向かった。
大好きな姉ちゃんの大好きな旦那さん。俺の大好きなようちゃん。
「……俺が幸せにするよ」
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