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 起きたら全身が痛かった。鈍痛が腰あたりでじんじんと響いている。時計を確認すると朝の五時。こればっかりは昔の習慣が抜け切れていないようだった。始発に乗って会社に行かなきゃならないわけでもあるまいに。

 起き上がって体を見下ろせば、そこかしこに充血した赤い痕がある。相当なものだ。相変わらず噛み癖がひどい。

 横を見下ろせば元凶の暴君折本様がそれは気持ちよさそうに寝こけている。まぁ吐かなかっただけ今日はマシだ。

 起こさないようにサクッと起き上がり、ベッドの中の俺がいた痕跡を綺麗に消す。不自然にならない程度にシーツをならして、折本の使っている香水を半プッシュ程、部屋の隅に吹きかけた。

「あとは、これだな……」

 自室に戻り鏡の前に立ってみる。わぁ、すっごい。体が斑。頑張れば錦鯉になれそう。頑張るって何をだよ。

 胸や腰、太もものキスマークと言う名の内出血は服を着たら隠せるとして、問題は首元だ。

 派手な噛み痕が残っている。普通のTシャツを着ても確実に隠せない。こんなところに絆創膏を貼っても不自然なだけだし、目ざとい折本はニヤニヤしながら聞いてくるだろう。自分がつけたものだとは微塵も思わず、キスマークでもつけてんの? とか完全に面白がって聞いてくる。

 俺にそんな相手はいないと確信しているのだからむしろ安全策とも呼べるが、残念ながら歯型までもがくっきりと残っている。

 タートルネックを着るには暑い季節だ。いつもは着ない服を着ても逆に目に付く。自然に、いつも通りで。着回ししているものを着るのがベスト。

「うーん、いける? 危ない?」

 少しフードにボリューム感のあるプルオーバーを被ってみる。伸びてきた髪とフードにぎりぎり隠れてくれそうだった。あとは折本に右向き背後を取られないように注意を払うしかない。

 なんだか森でクマとでも戦っているみたいだ。珍獣だものな、あのヤリチン。

「は〜あ、朝飯作ろ」

 かくも主夫の朝は早いのである。

 スクランブルエッグにカリカリベーコンを焼いていれば、六時になったあたりでようやくのそのそと折本が起きてきた。寝入りは悪いが寝起きはいい俺とは反対に、折本は寝つきはいいが寝起きが悪い。

「…………はよ」
「はよはよ〜! 今日も一段とイケてんねぇ」
「うん」

 ちらり、と折本を窺った。目が開ききっていないがいつもと変わらない。うん、いつも通りだ。

 こいつ、昨日の記憶、一ミリもねぇな。

 呆れなのか、安心なのか、ホッと息を吐く。いつものことだが逆にすげぇと思う。三発も出しておいてそりゃねぇだろ。本当に精力バグってんな。

 どうやって家まで帰ったとかも、きっと全部覚えていないのだろう。普通そういうことは気になって聞いてきそうだが、なぜか折本はそれすら聞いてこない。慣れているのか、興味がないのか。

「今日、ちょっと遅くなるかもしれない」
「マ? 飯は?」

 なんだ、また女か? お前にとっちゃ昨日のアレはノーカウントだもんな。ヤリチン折本くんは一日ヤった記憶がないだけでもう限界か?

「外で食って帰る」
「あいよ」

 どうせ俺にかけた胸やけするほど甘い言葉は何も覚えていない。まぁ、いいけど。酔っぱらいの戯言なんかいちいち気にしてられるかよ。

 いつもとまったく変わらない。寝起きでテンションの低い折本も、朝ごはんを食べて着替えれば徐々にシャキシャキしてくる。

「じゃ、いってきます」
「うい、いってら〜」

 そのまま折本を送り出して、扉が閉まったところで暑苦しいプルオーバーパーカーを脱ぎ捨てた。腰がずきずきする。ニートでゴミみたいな俺がイケメンヤリチン折本様と住まわせてもらうには、ダッチワイフくらいなってやんないとね。

 これは対価か。いいや、そんなことはない。だって気持ちいいし。どちらかといえばウィンウィンに近い。いや、そうか? 折本にとってウィン要素あるか? まぁ、でも。

「めっちゃ、よかったな……折本のちんこ最高……」

 次は一体いつになるのだろう。というか次、なんてあるのだろうか。

 毎日、毎日、懲りもせず飽きもせず女を抱いて、そのくせ泥酔して俺に迫ってくる。何? 折本くん、やっぱり俺のこと好きなの? え、そうだよね、あんなに俺に好き好き言ってくるんだもんね。やったぁ! 俺も好き!

「とか、素面で言えるわけねぇだろ」

 本心なんて分からない。酒に飲まれる男の言うことにいちいち意味を見出してはいけない。どれだけ考えても、堂々巡りを繰り返すだけだ。もう既に飽きるほど考えた。だからケツって気持ちいいのな、くらいの感覚でいいのだ。

 事実、折本のおかげで俺は日本のアナルグッズの売り上げに貢献した。立派な社会貢献だ。ニートでも経済を回してやったぜ。

 ということはつまり、セックスは社会貢献……? なるほど、折本くんは文字通り精力的な活動で社会貢献をしているのか!

 流石俺たちのヤリチン! かっこいい! 抱いて!

「……あ、爽やかくんにお礼言っとけっていうの忘れた」

 にしても、飲み会の次の日も仕事で外食って、どうなのよ。


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