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 中をほぐす指が増えた気がした。いやに時間がかけられている。いつもなら、こんなに丁寧じゃないのに。執拗に、ローションを馴染ませた指が敏感な部分に触れそうで、触れてくれない。

 折本は限界量のアルコールを接種したせいか、騎乗位の体勢で俺を上に乗せていた。下から、上気した頬を妖し気に緩ませながら俺の反応を楽しそうに窺っている。

「っ、なんでっ、お前」
「なに?」

 つい腰を上げ、馴れた場所に折本の指を自分で当てそうになれば腰を掴まれ固定された。

「勝手に動くなよ」
「だって……っ」
「俺は優しいから、処女の真崎くんには痛い思いさせたくないの」

 唇を舐め、八重歯を見せた折本がにやりと笑う。優しさじゃない。ただ焦らして楽しんでいるだけだ。

「っクソが。この処女厨」

 俺の穴なんてお前のせいでガバガバだろ。さっさと挿れるなり、せめてもっといいところを擦ってくれ。

 腰を揺らせば勃ちあがった俺のものと折本のものが微かに擦れる。がちがちに固くなった折本のが熱い。お互い先端はもう濡れそぼっていて、透明な雫がぷくりと浮いてはたらたらこぼれて腹を濡らした。早く、これを入れてくれ。

 耐えられず手を伸ばして、折本と俺のものを重ねて握り込めば、手の中の熱はもう破裂しそうで息を飲んだ。軽く握ったそれを扱けば、手の中でびくりと震える。

「まさき」
「っぁ」

 咎めるように、これまで触ってくれなかった前立腺を強く押される。折本の節ばった指に腸襞がまとわりついて収縮した。思わず腰が跳ねて、天井を向く。たったの一回だというのに、じわりと広がった快感をすぐに身体が求め始めた。

 唇を噛んで、折本を睨みつける。酔いで赤くなった目元は楽しそうに細められていた。

「ちゃんと気持ちよくなれて偉い」

 処女なのにってか。お前が好き勝手開発したからだよ。舐めた物言いに、折本の指を締め付ける。

「きっつ。せっかくほぐしたんだから、もうちょい緩めとけ」

 額に汗を浮かせて、折本が熱い息を吐きだしながら笑った。普段は見せない顔。情事の匂いだ。じっと見つめていたら、名前を呼ばれた。

「なに」
「腰、浮かせて」

 言われた通りにする。折本は熱く猛り立つものに手を沿えて当てがった。まだ、入り口に当てられただけなのに、すぐに飲み込みそうになるのを堪える。それでもひくつくのを抑えることはできなかった。

「はは……エロ。自分で入れられる?」

 空いた手で俺の腰や胸をゆっくりと撫で上げながら、上気した顔で試すように言う。

「……お前、普段もこんなんなの?」
「普段ってなんだよ」
「女の子相手に」
「さぁ?」

 少しムッとした顔をした折本が撫でていた俺の胸元で乳首をぎゅっと摘まんだ。びり、と強い電流が走ったように身体が反る。

「っ、い」

 思い切り動いた衝撃で先端が飲み込まれた。はぁ、と折本が息を吐きだす。その快感のままに漏れ出たような声に興奮して、ますます締め付けてしまった。

「あっ……」
「っ、いいよ。ゆっくり、そのまま腰落として」

 吐息とともに吐き出される声がやけに色っぽい。今俺たちがしようとしていることが何なのかを実感させられる。折本は自分からは動かず、俺がゆっくりと飲み込んでいくのをじっと見ていた。

 ……なんで、こいつ今日はやたらと優しいんだ? そういうプレイなのか? いつもならもっと暴君全開で、噛むわ抜かずに二回戦目入るわで激しいだろ。

「んっ」

 ふと疑問に思ったが、すぐにそんなことは頭から消えた。圧迫感を感じるとともに、身体の内側にずん、と重い熱が埋まる。ようやく自分の中に入ってきたその感覚に、満たされたように口角が持ち上がった。折本を見下ろして微笑む。

 すごい奥まで届いてる。腹をさすれば、中でさらに大きくなるのを感じた。

「っ、ふふ……はやて」

 折本が目を見開いた。お前が優しいのなら、俺だって応えてやるよ。胸やけするくらい、甘く優しく、全部溶かそう。

 火照った顔に手を伸ばす。触れたら案の定、熱を持っていた。俺の手のひらの方が温度が低く気持ちよかったのか、折本が頬を擦りつけてくる。まるで猫を撫でているみたいだ。

 腰を落として唇を重ねる。結合部がぐちゅ、と音を立てた。お互い吐き出す息にはアルコールの匂いが含まれている。既に酔いも回っているというのに、余計に頭がくらくらした。

 まるで思春期の男みたいに切羽詰まって求め合い、必死にお互いを貪り合う。無意識に揺れる腰が生み出す刺激は緩やかでもどかしい。

「颯」
「っ……は、」

 まさき、と熱に浮かされたように折本が囁く。確かめるように何度も何度も名前を呼ばれる。俺の体を撫でていた折本の手が頬に触れた。その仕草が、まるで愛おしいものにでも触れるようで。

「っ、はやて」

 切なく求めるような声が出た。折本の明るい瞳がどろりと蕩ける。

 唾液を引いた唇はすっかり赤く火照ってしまった。その濡れた唇が妖艶に三日月型を象る。

「好き」

 譫言のように繰り返した。首元に降りて行った唇が皮膚を吸う。いつもは血でも吸われるんじゃないかってくらいに歯を立てられるのに、今日はただ甘い刺激だけを感じた。

「好き……まさき……いなくならないで」

 鎖骨を軽く噛まれ、そのまま胸まで唇が移動していく。「まさき」と甘い声が何度も呼んだ。

「ぁ、い、なくならないって……っ」
「ほんとに?」

 酔いでとろんとした目が甘えるように上目遣いで見上げてくる。息が上がっているのが俺だけなのが納得いかない。安心させるように折本の手に指を絡めて握った。

「約束、してもいいよ」

 赤らんだ目元を見つめてそう言えば、折本は俺を睨みつけながら俺の小指をがじ、と噛んだ。赤くなった歯痕を熱い舌がぬるりと舐める。どうやら指は切られたらしい。絶対に破れないじゃん。

 ようやく信用してくれたらしい折本が打って変わってにやりと目を細める。尻たぶをぐいっと割られ、身じろぎで動く程度だったものがさらに奥に入り込んできた。

「ふ、ぁっ、」

 奥深くまで届いたそれが体ごと揺すられることで、内壁全面に刺激を与える。動き自体が緩やかでも、確実に分かって突き上げてくる箇所がある。

「っん、ぁ……っは、はや、て……っ」
「もっと、俺で気持ちよくなって」

 最初こそ緩やかだった動きが、徐々に激しさを増していく。乗っかっているのは俺のはずなのに、下から好き勝手動くものだから力が入らない。

 肌がぶつかる音と、聞くに耐えない卑猥な水音が響いている。油断したらあられもない声が上がりそうで唇を噛みしめた。それなのに、執拗に追い立てられるせいで、食いしばった歯の間から唾液が垂れていく。糸を引いた唾液が折本の肌に落ちた。

「は、ぅ、んっ」
「声、抑えんなよ」

 興奮気味に上ずった声で囁かれる。すっかり折本の上に倒れ込んでいたが、腕を使って起き上がる。目が合えば、折本は頬を赤く染めて舌を出した。しょうがないから口を開けてやる。舌と舌が絡まり、湿った声が出た。

 角度を変え、束の間舌が離れる度に折本が「好き」と言う。その言葉が繰り返されるたびに下腹部がぎゅっと締まった。空気が足りない。息を吸おうとすれば、折本の甘い囁きが入ってくる。酸素を分けてもらったみたいで、俺も同じ言葉を吐き出した。

 ふ、と折本が笑う。凡庸な俺を見て何が楽しいんだか分からない。折本は満たされたような笑みを浮かべている。その顔が綺麗だったから、俺も笑った。

「ん、あ、あっ」
「っ、は……」

 体内で落ち着いていた熱が、激しさを増して揺さぶられた。途切れることなくやってくる快感に、後孔がひくひくと収縮を繰り返す。自分では止められないその動きが、折本の全てを搾り取るように中のものを締め付けた。

 俺の荒い息に、折本の息が重なる。もう嫌なことなんて何も考えられない。ただひたすら、目の前にある快感を貪るだけ。

 自らも腰を揺らして、弱い所に当てにいく。体を反らし散った汗が折本にかかった。腰を揺らす度に折本の腹にぶつかる性器の先端からは、透明な先走りがとめどなく溢れ、折本の腹までもを濡らしていた。

「……っ」
「ぁっ」

 一層強く突き上げられ、折本が低く唸った。苦し気に眉を顰め、熱い息を吐きだすその顔を視界に収める。どくん、と腹の中で脈打っているのを感じた。

 じわりとした熱を感じる。それが錯覚なのか実際の感覚なのかは分からない。それでも、俺にはその熱がたまらなく気持ちよかった。下腹部を押さえじん、とする快感を追う。びくびく、と震えた性器からは触れてもいないのに白い精液がどろりと垂れた。

 二人分の荒い息がその場に落ちる。腰を動かして折本のものを抜けば、中に出された精子が滴った。それを手で受け止めてティッシュで拭おうとして、折本をちらりと窺った。ぼんやりとした顔をして、目だけを動かして俺を見る。

「……はは、すっげー量」
「なんかムカつく」

 折本にとっては俺は処女だ。そんな俺に搾り取られたのが気に入らないらしい。可笑しくて声を上げて笑った。折本の顔の横に腕をついてあやすように唇を重ねる。長いことそうしていたが、徐々に折本の力が抜けてきたのを見て口を離した。

 最後にもう一度だけ、耳元で囁く。

「好きだよ、颯」
「俺は……」

 もう単語を聞き取ることはできなかった。こくり、と折本の頭から力が抜けた。

 すっかり意識を失った体を支えて、柔らかい髪に指を通す。上気した頬と汗で額に張り付く髪が情事の跡を残している。

「好きだよ、颯……お前は愛してるって言ってくれんの?」

 明日もその言葉、覚えててくれるか?



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