3.Boy gets boy


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 にこっと笑った夜盗がぼやけた。焦点が合わなくなって、がちん、と音がする。

「ンッ……ふっ、」

 歯がぶつかった。夜盗が急に俺の口に噛みついてきて、俺の咥内を貪るように舐めまわしていく。逃げようとしても、上からのしかかってくるこいつを引きはがすこともできない。

 首を振ってせめて息を吸おうとしたが、夜盗が俺の頭をがっちりと掴んでそれすらも許さなかった。

「んっ、フッ、ふぅ……ぐ、」

 本当に息が吸えない。酸素が、足りない。くらくらする頭が心拍に合わせてがん、がん、と振動している。

 あまりの苦しさに夜盗の下で暴れまわっていたが、咥内を捕食するようにうごめいていた夜盗の舌が喉奥をついた途端、身体がびくりと飛び跳ねた。

 じゅる、と嫌な音を立てている夜盗は形こそ人間に見えるが、やっぱり中身はちゃんとバケモノのままらしい。人間の舌では到底届くはずもない箇所にまで触れてくる。

 嘔吐反射で身体を震わせてえずき、その勢いで夜盗の顎を殴りつけた。俺の渾身のアッパーを喰らった夜盗は、口を半開きにしたまま顔を上に反らした。自分の顔というのがつくづく気に入らない。

 きら、と金色に目が光る。俺を見下ろす夜盗と目が合った。細められた目が一層楽しそうに笑っている。

 そんな奴をゾッとしながら睨んでいれば、俺の頭を掴んでいた手がするりと移動し、口を塞ぐようにして頬を掴まれた。

「んぐっ、……っう」

 夜盗は貧弱な俺と同じ身体をしながらとんでもない馬鹿力を持っているらしい。俺が両手で夜盗の手を引きはがそうとしても、ぴくりとも動かない。

 やけくそになって夜盗の手に噛みついたのに、なぜだか俺が噛みつかれていた。

「っ⁉」

 開きっぱなしの口からだらだらと唾液が垂れていく。それを拭うのは、俺の口を塞ぐ夜盗の手のひらについた“口”だった。

 俺の体と同じように、夜盗にも未だ隠し持った目や口があるらしい。
 夜盗の手のひらの口から長い舌が伸びて、俺の咥内を犯していく。喉奥をひっかかれる度に目に涙が浮かんだ。滲んだ視界に、夜盗が恍惚とした笑みを浮かべているのが映る。

 いい性格してるじゃねぇかよ。

 無理に夜盗の腕を外すのを諦めて、俺は夜盗の首元に手を伸ばした。

 両手で掴んだ夜盗の首を思いきり締め上げる。自分と同じ顔をしたものを殺そうとしている視覚情報に頭がおかしくなりそうだった。もしかしたら本当におかしくなっているのかもしれない。

 全部幻覚だったらどうしよう。最初から夜盗なんていなかったら?

 そんな恐ろしい妄想にひやりとした時、相変わらず咥内で好き勝手暴れていた粘着質な舌がついに気道にまで入り込んできた。

「がっ、ゴホッ、おぇっ」

 気持ち悪い。
 最悪なインフルエンザの検査みたいだ。思わず夜盗の首を締めていた手が離れ、腕に何かが巻き付くのがわかった。動かすことができない。

 何だ、と思って見て見ると、俺の腕からかぱっと開いた口から長すぎる舌が伸び、俺の手首を縛っている。
 もう白目でも向きそうな気分だった。このバケモンにはなんでもありなのだ。

「櫻」

 俺が首を絞めていたせいか、夜盗の顔は赤く上気している。は、と吐き出す息は熱気を帯びていた。口元には控えめな笑みが浮かんでいて、瞳は妖しく光っている。

 そんな熱っぽい声で俺を呼ぶな。

 できうる限りの殺意を込めて夜盗を睨み、口の中の異物をどうにか取り払おうと躍起になる。

「ぐ、ぅ、うう! っいぃ!」

 必死に頭をぶんぶん振っていれば、ようやく口を塞ぐ夜盗の手とそこから伸びる舌が離れていった。触れられることを想定されていない敏感すぎる器官を舌が伝っていく。その感覚があまりにも気持ち悪くて、夜盗の舌が完全に咥内から出ていったと同時に俺は少しだけ吐いた。

「櫻」

 俺を睨み唾でも吐きかけてきそうだった奴とは思えないほど、夜盗の声はうっとりとしている。気色悪い。

「ハァ……はぁ、っ、んだよ、お前……消えろ……死ね、」
「さくら」

 舌に縛られた両手首が頭の上で固定される。抵抗する暇もなく、夜盗がシャツをまくり上げ素肌が晒された。外気に触れた皮膚が一斉に鳥肌を立てる。

「っ、お、お前っ、何なんだよ!」

 腰に跨った夜盗は俺がどう暴れても微動だにしない。何を目的としているのか、コイツが何をしたいのか。まったくもって理解不能なのに、なぜかこの時本能的な恐怖を感じとっていた。

「ヒッ、馬鹿、やめろ! やめろ!! 何なんだよ、何なんだよお前!」

 あは、と笑い声が聞こえた気がした。
 事実、夜盗はうっそりと笑って俺を見下ろしている。でも声が聞こえたのは俺の耳の近くに手をつく夜盗の腕からだった。

「君の友達だよ」

 流暢に何を言う。こんなレイプまがいのことをするのが友達か?

 夜盗がいっそう笑みを深くして俺の頬をなぞった。

「や、やだ……やめろ、ねぇ! 聞けってば!」

 ずる、とズボンと下着が剥ぎ取られた。俺のカタチをした夜盗の肌がぼろぼろと溶け落ちて、俺の素肌に垂れていった。じゅっと音を立てて火傷をしたような一瞬の痛みが広がるが、次第にそこが熱を持って疼き始める。

「な、なに……? 気持ちわるい……」

 もぞもぞと膝をこすり合わせるようにして紛らわしていれば、夜盗の指先がつ、と有り得ない場所に触れた。

「っ!? おっまえ」

 思わず刺激を受けた箇所を見下ろして頭にカッと血が昇った。
 夜盗の指がゆっくりと、性器をなぞるように動いている。熱を持ったそこはなぜだかぴくぴくと頭をもたげそうにしていた。

 ありえない。気持ち悪いだけなのに、なんで反応してる?
 こいつの体液のせいか?

「お前、っ、まじで何がしたいの……ぅ、」

 身体が思うように動かなかった。金縛りにあったみたいに視線くらいしか動かすことができない。
 見上げた夜盗の目は爛々と光っていた。その視線が俺の体を舐めまわすようにじっとりと見つめてくる。
 たぶん、これは恐怖だ。

 自覚してしまえば、身体がかたかたと震え始めた。小刻みに震える歯が音を立てている。夜盗の指は俺の性器に微かに触れるくらいのところをゆっくりとなぞっていった。

 見たくもないそこに目を向けてしまえば、頭上でくすりと小さな笑い声が聞こえた。さっきまでよりずっと生々しく見える人間の指が先端に触れる。離れていった指の腹には透明で粘着質な糸が引いていた。

「っ、は、」

 夜盗の指の腹がまたぴとり、と亀頭に触れる。

「んっ」

 思わず腰がひく、と動いた。そんな反応を笑うように、ちゅ、と微かな水音を立てて指先が離れていく。だけど、銀糸が切れる間もなくまた指先がくちゅり、と触れては離される。

「ひ、……んっ、はぁ」

 もどかしい。
 こんな刺激ともいえないものを何度も何度も。

「あっ、また……っ」

 夜盗の指に自身を押し付けるようにして、無意識に腰がひくりと浮いた。だけどすぐにその指を離れてしまう。

 いつのまにか、夜盗の体液がかかった腹や胸が赤く爛れたように腫れ始めていた。ただでさえまだらに赤かった俺の体が余計にグロテスクな見た目になっている。そしてその箇所が異様に疼くのだ。

 痒い。気持ち悪い。変な感じ。

 夜盗の指は未だに俺の性器を弄ぶようにして触れては離してを繰り返している。もどかしい。ちんこも、乳首も。

「ハァ……っ、お前、いい加減にしろよ!」

 どうせ触れるならもっと、ちゃんと触れよ。

 まだ快感になる前の熱っぽいこそばゆさが体中で刺激を欲している。それは抑えることのできない欲求であるようで、俺は必死に固定された腕を動かした。

「んんっ、ふッ」

 全然取れないどころか、両手首を捕らえる舌は余計に長さを増して脇の辺りまでぐるぐると巻き付いてくる。脇をくすぐるように舐められ、自分の声とは思えない女のような高い声が漏れた。大きくびくん、と身体が波打った拍子に夜盗の手にぐり、と亀頭が押し付けられる。ただでさえ敏感になっていたそこにその刺激は十分大きかったらしい。

「はぅっ、ぁ」

 意図していないにしろ、急にやってきた強い刺激は、ずっともどかしいだけだった感覚を一気に快感へのスイッチへと変えてしまった。

「あっ、あっ、な、なにっ、や」

 自制がもう効かなかった。狂ったように腰を動かして夜盗の手に性器を擦りつける。亀頭が擦れてくちゃくちゃと音を立てていた。

 自分の手を勝手に自慰に使われているというのに、夜盗はただ興味深そうに俺を見下ろしているだけだ。こんな自分と同じ顔をしている化け物なんて見てないで、早く溜まった精液を出してしまいたい。思考がそんなただの動物的な衝動に支配される。

「んっ、はっ、ぅん」

 もっと擦れよ。そこだけじゃイけない。頼むからもっと、手を。

「!? ん、なっ、はぁ……っ」

 充血しきった大してでかくもない性器にばっか気を取られていたせいで、不意打ちでやってきた刺激を処理できなかった。すっかり硬く立ちあがった乳首をどこからか出てきた舌がその湿って熱い肉で舐め取っている。

「な、何!? 何、これぇ……っ! 無理、無理っ!」

 こりこりとした乳首が厚い舌で転がされている。よく見ればこれも俺の脇辺りにぱっくりと生まれた口から伸びていた。

 いつもはこんなところを弄られようと何も感じないだろうに、なぜだか無償に敏感になっている。感じたことのない刺激は、我慢できない痺れと甘い痛みで身体を動かさずにはいられない。

 思い切り身体をねじって刺激から逃れようとしたのに、刺激の源が自分の脇腹に引っ付いている口なものだからどうしようもなかった。

「あっ、ひ……っ、ぁっ」

 暴れれば暴れるほど、今度はちんこが擦れてしまう。ちゃくちゃくと嫌な水音が自分の下腹部から立っている。もうわけがわからなくて、刺激から逃れようとしているのか、快感を得ようとしているのか判別がつかなかった。

 水音が次第に激しさを増している。いつの間にか夜盗が竿をきつく握って扱いていた。身体はそう触られることをずっと望んでいたのに、得体の知れない恐怖心がある。

 頭ではおかしなことになっていると理解している。こんなことをする意味は?
 俺への嫌がらせと言われたほうが納得できる。なんで?

「ぅ、っふ、はぁ……っ、あ」

 痛痒いとしか思えなかった乳首を弄られ始めてから、どんどん感じる気持ちよさの波が大きくなっているのが分かる。達する寸前の、昇り詰めていく感覚に脳がじんじんと痺れていた。もう一つのことしか考えられないように。

「ぁ、あ……っ、んぅう……ふ、ぅ、あぁあ……っ」

 出したい。イきたい。

 もっと考えなきゃいけないことがあるのに。どうにかしないと駄目なのに。こんなのおかしい。流されるな。
 必死に歯を食いしばってそう思考を働かせようとするのに、しっかりと射精の準備ができている身体はそんな理性などなんの意味もなしていなかった。

 性器を握る夜盗の手が一層強くなる。ぎゅっと握ったまま、それは扱くでもなくそのまま止まった。ただきつく握っているだけ。

「はぁっ……はぁ……っ、な、なんで……? ねぇ、っ」

 生理的な涙で視界がかすんでいた。下腹部に視線を向ければ、可哀想なほどに充血した性器がひくひくと震えて先走りを垂らしている。

 俺の視線を受けて、まるで見せつけるように夜盗が強く性器を扱いた。その刺激もほんの一瞬で、たった一度の往復で止まってしまう。

「うっ、うぅ……馬鹿がよ……っ、クソッ、クソがッ」

 涙を拭いたいのに、それすらも腕を動かせないからできない。もうずっと勝手に腰は動いている。なけなしのプライドで夜盗を睨めば、涼しい顔で笑っていた。小馬鹿にしたような腹立つ顔で、楽しそうにきゅっと性器を握る力を強める。痛かった。それがさっきよりも激しさを増してもう一度扱かれる。

「っ、ひ、ぅ」

 もう一度。もっと激しく、早く。

 俺の頭の中など、もうそれしかなかった。夜盗もそれを知ってか、シュッシュッ、と今度は一定の速さで今にも達しそうな俺のちんこを扱きはじめた。

「あっ、あぁ……っ、んっ、ふぅ、は」

 快感を求めて震えてる自分の性器から目が反らせなくなる。あともうちょっとで、やっとイける。その昂りに合わせて、睾丸が上がってきているのが見えた。

 緩く開いた口から唾液が零れていく。自分の声とは思えない喘ぎ声が勝手に口から出ていった。夜盗の手つきが激しくなる。

 ――来る。もうイくっ

「あっ、あぁ……っは、ぅ、あ、あぁあ……っ!」

 びゅうっと音でも聞こえそうなほど長い射精で、自分の腹に白い精液が飛び散っていく。
頬にかかった精液のせいで青臭さが鼻についた。

 せき止められていた分が一気に放たれて、まだ止まらない。断続的にびゅっと出ていた精液も次第に勢いを弱めていく。

 大きく上下する胸の上で赤く腫れあがった乳首がぴんと立っていた。いつの間にかずっとそこを虐めていた舌がなくなっている。荒い息を何度も吐き出し、ちかちかしていた視界がだんだん明瞭になってくる。まつげに乗った涙が鬱陶しくて、きつくまばたきをすれば頬を伝って雫が落ちていった。

「はー……はー……」

 縛られていた腕はいつのまにか自由になっていたが、弛緩しきった身体ではほんの少し動くことすら苦痛だった。何もしたくない徒労感にぐったりしていれば頭上に影が落ちる。

 ごつん、と額がぶつかった。


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