ネオンの微熱
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〇
まだ次がある?
そんな甘えた考えは捨てるべきだ。一度した失敗は失敗でしかない。それを次に生かそうだなんて、やけに楽観的じゃないか。もう二度と戻らない時間をそんな言葉で簡単に意義のあるものにしていいのか?そんなものただの正当化でしかないはずだ。
諦めと後悔と焦燥。
胃の中のものひっくるめて内臓全てぶちまけたい気分だ。ちょっとやそっとですっきりするとは思えない。
頭にへばりついて離れない光景もろとも消し去りたい。もう何も知らなかったまっさらに状態に戻りたいくらいだ。
「…そうやってまた」
誤魔化して、見ないふりをして、突きつけられて逃げ回る。
「変わらない…」
カーテンで閉め切った薄暗い部屋でただベッドに体を沈める。
インターンから帰って三日が経った。明日、明後日と日を数える。明々後日には最後のインターンだ。また東京へ行く。
ずっと好きだった。
瀬津はそう言った。
なんで俺じゃなかったんだろう、なんてただ自己中心的なバカの考えることだった。わかってしまったら今度は逆になるのだ。どうして俺だったのだろう、と。
「…俺だって好きだ…」
なのに、なのに。
「…どうしたらいいんだよ…!」
いざ性を含んだ目で見られると、思った以上に戸惑いが大きかった。でも失いたくない。瀬津を失ったら、俺は…。
心臓でも引き抜かれたようにぽっかりと穴が開く。これを埋められるものなんてどこにもない。
枕に顔を押し付けうずくまった。何もしたくなかった。
ちょっとは苦しめと思う。俺はもっと苦しんで苦しんでぼろぼろになるくらいがちょうどいいんじゃないかと思う。こうやっていままで人生舐めてきたから、瀬津の味わった苦しさを身をもって実感すればいい。
でも。所詮自分がかわいい人間なんだろう。こんな苦しいのも辛いのも嫌だ。まったくこんな自分が吐き気がするくらい嫌になる。
ふと枕元のスマホが着信を伝えた。
出る気にもなれない。画面を見たら木下だった。何の用だろう。拒否することもなく放置していればそのうちコールが止む。安心して目を閉じるもつかの間、すぐにまたコールが鳴った。
今人と話す気には全くならなかったがもし大事な連絡だったら笑えない。だるい体を引きずって電話にでた。
『おせぇよ、さっさと出ろ樋本』
「…うん、ごめん」
『何日休んでんの?』
「お前学科違うだろ。なんで知ってんの」
月曜日は授業はない。でも研究室にも行ってない。まあ今週は当番でもないからいいだろう。
火、水と授業も休んだ。優等生の俺だから数人の友達から連絡が来ていた。体調が悪いとテキトーなことを言った。
『お前よくも悪くも目立つんだよ。自覚なかったの?』
「自覚はある」
『はぁ腹立つな』
「どうも」
『なんかあった?』
木下の声が優しい。なんなんだよ、生意気なくせに気が利いて顔もかわいくて。なんか無償に抱きしめたくなるくらいにはぐっと来た。男だとか抜きにしてコイツに告られてフる奴なんていねぇだろ。
………俺だわ。
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