ネオンの微熱
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「俺に嫁力発揮すんなよ」
『まあね。俺優しくてチョーいい奴だから。どうせ日曜日のことだろ』
「…」
『大の親友に告白でもされた?』
「…………」
『へぇ図星?ねぇちょっと教えてよ。今どんな気分?』
いつもと同じ、いやなんならいつもよりも高いくらいのテンションだ。
「……ひかえめに言って死にたいかな」
『なんで?そんなの予想の内だよ。俺が聞きたいのはその理由』
正直なにも考えたくなかった。今は一人でいたかった。
「……俺だって告白されたわけじゃない」
『でも好きだったんだろ?せっちゃん、樋本のこと』
「なんで分かる」
『いや、見ればわかんだろ。かわいそうだなーって思ってた』
「……瀬津が?」
『当たり前だろ。俺はそっちの人間だからせっちゃんの肩を持つけど』
「……」
『あんなに性別の問題じゃないとか言ってた樋本もやっぱり口だけだったってわかって俺は安心したけどね。ほら、ノンケを好きになっても何もいいことない。現実見ただろ。幻滅した?』
「違う」
嫌になるのは自分にだ。木下の言う通り、俺は見事に口にしたことを裏切った。何が性別の問題じゃない、だ。何が友達と恋人の境界が分からない、だ。
瀬津に触れることすらためらった俺が何を言う。
「違う…けど」
震える肩に涙がにじんだ潤んだ瞳。白い肌は赤くて汗ばんでいて。今まで見たことないほど、妖しかった。
触れたい気持ちと共に、触れちゃいけないという気持ちが混ざった。なんだか自分が凶器にでもなったようで、俺が何をしても瀬津は壊れてしまいそうに見えた。
『違う?』
「……分かんねぇよ」
『ふざけんな考えろ』
その通りだ。せいぜい苦しめ。答えを見つけろ。
頭を抱えて歯を食いしばった。それでもいくら考えても出てくる結論に変わりはなくって、それをどう処理すればいいのか分からない。
「……好きなんだよ」
『嘘』
「好きなんだ」
語尾が強くなった。何も間違ったことは言ってない。だけど、
「でも、怖い」
自分でも聞いたことないくらい情けない声が出た。自分で自分の声にふっと笑ってしまう。他人に助けでも求めるような声だ。情けない。笑える。
『…怖いのは……分かるけど。同じくらいこっちも怖いから。まあ俺は樋本がどんな判断をするのかが気になるだけだけど。せいぜい参考にさせてもらうわ、お前みたいに』
言うだけ言って木下との電話が切れた。どんなタイミングだ。雑すぎんだろ。
真っ暗な画面になったスマホをテキトーに投げ捨てると、ベッドから落ちてごとっと重そうな音がした。ものも扱いは丁寧なほうだからちょっとひやりとする。
ただベッドの上で目をつぶって倦怠感に身を任せた。
認めることが怖いのだ。この異常なくらいの好きを恋愛感情にしてしまうことが怖い。足を踏み入れることが怖い。
第一認めることができたならすべてが丸く収まるなんて言えない。
瀬津を好きだと、瀬津を恋愛対象として好きだと、そういう自分を受け入れたいのか受け入れたくないのか、自分でも分からなかった。俺は別に男が恋愛対象なわけではないのだし。俺は男を好きになるのではなく、ただ瀬津が好きなのだ。
偏見なんてものは持っていない。しかしそれはきっと俺が当事者ではなかったからだ。いざ自分が足を踏み入れそうになると急に怖くなる。周りからどんな目で見られてしまうのか、と。
俺がよければ、瀬津が良ければ、認めてくれる人がいてくれれば…それでいい、と以前の俺なら言えただろう。
現実にはただ怖かった。今ならまだ引き返せる、なかったことにできる、気づかなったふりができる。そう逃げ道ばかりを探している。
瀬津のことを考えれば考えるほど後戻りの効かないところまで行ってしまいそうで考えたくない。
必死にこれは違う、勘違いだ、と頭から追い払おうとするも、それさえも俺のなかの何かが拒絶する。
もやもやと取りついた感情を紛らわすために、だるい体を引きずって走りに出ることにした。
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