番外編
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特大寝坊をした自覚はある。やけに明るく暑い空気に昼時なんじゃないかと思った。ぼんやりと天井を見つめていたが、となりで眉間にしわを寄せて寝息を立てる瀬津がいて笑ってしまう。
付き合い始めてから同じ布団で寝たのなんて初めてだ。こんな風に朝を迎えたのも初めてだ。
なんて感傷に浸るも、つい昨日の情事を思い出し頬が熱くなるのを感じた。
瀬津のサラサラとした黒髪をすきながら考える。
瀬津はそんなに不安だったのだろうか。今となってははっきりと言えるが、瀬津が男であれ女であれ、俺にとっては関係がない。男を受け入れることに抵抗があるか、受け入れてもらえるか。瀬津の頭の中にある大きな壁はきっとそこなのだろうと思っている。だとしたら、そんな不安を持たせる俺が悪い。
「…ごめんな、瀬津」
もっと分かりやすく愛せたらいいよな。
瀬津の眉がぴくりと動いた。目を瞬かせながらゆっくりと俺を見上げる。寝起きの焦点の合っていない目は徐々に俺を映して、そして目を丸くした。頭から布団を被ってわっと飛びのいたと思ったらそのままぼてっとベッドから落ちていき、うぎゃっとわめく声がくぐもって聞こえた。
「おー…せっちゃんおはよう。大丈夫か?」
「………」
反応の返ってこない饅頭のようになった布団の塊を叩いたが、変わらず返事がない。
「いやいや…めちゃくちゃ恥ずかしがってんじゃん…えー…かわいー」
ぼそりと漏れた本心が布団をかぶっている瀬津に聞こえたとは思わない。
なんとなく揶揄ってみたくて瀬津にちょっかいをかけてみたが、その日は結局一度も口を聞いてもらえず、無言のまま別れた。
始終赤面しかめっ面でよろよろと歩く瀬津は、明らかに昨日のことを身体的にも引きずっていた。が、手を貸そうとすると出ない声を出そうとして泣きそうな顔をするので泣く泣くそのままにしておいた。たとえ無言で口も聞いてくれなくても、目も合わせようとしてくれなくても、しっかりと見送りには来てくれた。
ずっと一緒にいた親友の新しい顔を存分に見れて、新鮮な反応が見れて、たまに可愛くない瀬津が愛しかった。そんな恋人がこの距離感に馴れてくれるのはまだ先の話。
当分はひと月にいっぺん会うたび、あのとんでもないセックスをした。それが変わらない幸せになるまでにはまだ時間がかかるけど、ゆっくり確かなものになればいい。
「あ、好きだよ。瀬津」
「あ、ってなんだよ。あ、って。俺は副食か何かか?」
「いや、主食…うーん主菜?かなぁ」
「それもそれでおかしいだろ」
季節はすっかり夏だった。日差しに瀬津が目を細める。アスファルトから立ち昇る熱気に、ラムネでも一気飲みしたい気分になった。
ぐずぐずと言う瀬津のくぐもった好きは聞き逃すことなく耳に入る。そっぽを向く瀬津には笑って応えた。人目を忍んで繋いだ手には二人分の汗がこもって暑苦しかった。
おしまい
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