第3話
← 28/127 →
「落ち着いたか?」
「…はい、すみません本当に」
泣きすぎたからか、頭が少しぼーっとする。浩二さんから離れると、初めてお店のお客さんがこちらに注目してたことに気づいた。顔がぼっと赤くなるのを感じる。隣にいたおじさんはほわりと笑い、がしがしと頭を撫でてきた。
「おっさん今何時?」
「はあ?自分で見ろよな。10時半過ぎだけど」
「あっそ。じゃ、俺コイツ駅まで送ってくるから会計よろしく」
「あ、おいっ」
「天野、お前は財布ださなくていいから。おっさん何高校生に払わせてんだよ」
「払うわ!お前の分はださねーって話」
「すみません…」
何やら揉めているが、俺が財布を取り出すとびっくりしたように浩二さんとおじさんが俺の手を止めた。別に払えない金額ではないし、ただでさえいろいろ迷惑をかけているのに会計も出してもらうことになるとは。
申し訳ない気持ちが残るが、この短時間で俺の中での浩二さんへの信頼はもはや出来上がっている。浩二さんの言うことなら聞いていいだろうし信用していいだろうと思い、おずおずと財布をしまった。
「まあ気にすんな。どうせ稼いでんだから」
「宮原てめ…」
「よっしゃ出よう天野、じゃ、おっさん今後ともよろしくぅ!」
「あ!お前にサポはしねえからな!」
「す、すみません…ごちそうになりました」
浩二さんに腕をつかまれて引きずられながら、俺はおじさんに慌ててお礼を言った。
店を出ると、浩二さんが俺をじっと見てきて突然上着を脱いだと思ったら俺に脱いだスカジャンを押し付けてきた。
「いや、さすがにこの時間に学ランはまずいぞお前」
とりあえず駅まで羽織っておけと俺に上着を渡すと、そのまま歩き出した。都会人の頭の回転はすごいな、なんて呑気に思いながら、迷いはしたものの俺もスカジャンを羽織ると浩二さんに続いて行った。
薄暗かった行きとは違い、路地にはぽつぽつと酔っぱらいがへべれけでよろよろ歩いている。しみじみとこれが夜の新宿か、とどこか遠い目で思った。
「もう満足しただろ。こんな時間に制服でうろつくのはもうやめとけよ」
前を歩く浩二さんは飄々としていて、その背中がやけに広く見える。
「…はい。でもどっちみち明日には帰るので…よかったです、俺は。ここにきて」
「そこは浩二さんに出会えてよかった、くらい俺を持ち上げてよくない?」
出会った時と同じように、ふわりと見下げるように顎を上げこちらを振り返った浩二さんは足を止め俺が追いつくのを待っていた。
「そうですね。…俺、志望校浩二さんのことにするよ
隣に並び、たった今心に決めたことを宣言すると思いの外目を丸くし驚いた表情をしている。
「え、あ、まじ?えっと俺が自分でいうのもなんだけど、うちの学校わりと難関よ?」
まあそれは知ってるが。今の俺では希望もないくらいのレベルなのだが。でも浩二さんを見ていてここなのかな、と思ったのだ。俺の居場所はここなのか、と。
「俺も一浪してんだけど」
浩二さんすら一浪してる。その事実に若干冷や汗が流れた。
「じゃあ俺はW大第一にして、浩二さんのとこは滑り止めにするよ」
「言うなあお前も…」
東京に行こう。
そのかわり死ぬほど努力しなければ、主に勉強で。見栄をはってはみたものの、浩二さんも一浪している大学に俺が現役で受かれるのか?と、現実に急に焦りを感じ始めるものの、前よりもずっと気が軽くなっていた。
← 28/127 →