第4話


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 気乗りはしなかったが、次の日半ば強制的にハルの家に行かされた。行かなければよかった、というのが本心だ。

 久しぶりに行った樋本家だったが、行くたびにこんなに大きかったかと思ってしまう。ハルの家の蔵へ回収した灯篭を紙の部分を外してしまっていく作業は、灯篭に火をつけて回るより根気のいる作業だ。

 俺が行った時にはもうハル以外の樋本の家の人がそろっていて、俺を見つけたハルのお兄さんである詩悠さんがにやにやと笑いながら近づいてきた。

「やっふー久しぶりじゃないの、せっちゃん元気?」
「はぁ、まぁ」
「せっちゃんいるって言ったら晴久も来るかな。もぉ最近の晴久がつまんなくてさ」

 ばしばしと背中を叩きながら肩に手を回してくる詩悠さんは、昔からずいぶんとパーソナルスペースの概念を持っていなかった。俺の顔のすぐ横でがはは、と豪快に笑っている詩悠さんを振りほどくことはもちろん出来ない。

 何よりこの兄弟は顔のパーツが似ている。きめ細かい肌も高く整った鼻も、大きな二重の目も、笑うとできるえくぼも。ハルのほうが少しだけ困り眉で目元が優しく、日焼けしていたが。

 詩悠さんから匂ってくる香水の匂いは甘く、少し煙たかった。相変わらず遊んでるのかな、と思う。三つ上の詩悠さんの噂はハルを通してでなくてもずいぶんと聞いていた。地元を出た今でこそあまり聞かなくなっていたが、俺たちが中学生のころから詩悠さんの女遊びのひどさは噂になっていたし、ハルもそれを否定はしなかった。

 浩二さんは見た目はヤンキーだし、新宿で男釣ってるような人だけど実はとんでもなく優しかったりする。でも詩悠さんはピアスも開けてなければ髪も染めてない、見た目だけをみればこれ以上ないくらいの好青年といったところだ。そんな詩悠さんは成人する前からタバコは吸っていたし、朝帰りなんてしょっちゅうだったみたいだし、修羅場なんて日常だった。

 人は見かけによらないことを知ってもなお、俺が詩悠さんを警戒してしまうのは、基本誰にでも優しいハルが唯一露骨に感情を表に出す相手だったからなのかもしれない。

「せっちん、軍手これ使いな」

 手ぶらで来た俺に軍手を投げてよこしてくれた詩悠さんは、その後もやたらと俺が疲れてきたところでペットボトルのお茶をくれたりお菓子をくれたり、なんだかんだで気を回してくれた。こういうところでやっぱり兄弟だな、と思い出す。

「いや〜やっぱり今日中には終わらないな、これ」

 疲れた、と俺の腰に腕を回しへにゃへにゃとくっついてくる詩悠さんが暑苦しい。俺が振りほどけないのを分かってそういうことをしてくるのだ、この人は。

「そういえばせっちゃんはどんなよ?うちの弟はもう口も聞いてくれないくらいがり勉になってるけど、受験勉強はかどってる?」

 俺よりずっとガタイのいい体で、綺麗な顔をして上目遣いでそう聞いてくる。こういうあざとさはハルにはないんだよな。

 進路については正直あんまり人に言いたくない思いがあったが隠すのもおかしいと思って口を開く。

「…行きたい大学はあるけど、頭は追いついてない。もう正直間に合わないんじゃないかって思って」
「シハル!」

 俺の言葉はきつい口調で鋭く遮られた。相変わらず俺にべったり張り付いていた詩悠さんも、ぴくっと動く。声の聞こえた戸口の方を見やると、珍しく眉をひそめ厳しい顔をしているハルが立っていた。

 俺には一切目を向けず、詩悠さんを睨むように見つめている。

「詩悠。お客さん、来てるけど」
「かわいげないなぁ、お前はほんと。今行くって」

 しぶしぶというように腰を上げた詩悠さんは、立ち上がるついでに俺の頭をぐしゃっとかき混ぜて行った。

 詩悠さんが出て行くと、はじめてハルは俺と目を合わせ困ったように笑った。

「お疲れ、瀬津。わざわざ来てくれてありがとな」

 そう言うと手に持っていたレジ袋の中からアイスを取り出し差し出してくれた。


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