第4話
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次に気がついた時は机に突っ伏していて、寝落ちしていたらしかった。部屋はもう電気をつけないと見えないほどに暗い。時計を見ると夜の八時だった。
栄さんは祭りの運営で外に出ている。今日この家には一人だと思って居間へ行くと、電気もつけずに暗いまま、扇風機だけをまわして縁側に座る父さんがいた。
「お、瀬津。お疲れさん、少し休めや」
「…父さん、いたの?行けばよかったのに」
「まあ最近は観光客なんかも多いだろ、ここの祭り。人混みが過ぎるのもいやだしなあ」
そう言って缶ビール片手に外を眺める父さんだけど、正直うちの庭は手入れの行き届いていない殺風景な竹林だ。半月の夜に何を見て楽しいのだろう。
「今年は瀬津は手伝いはよかったのか」
「まぁ受験生だしね」
「頑張ってるな。そういえば晴久君にあったよ、昼間に樋本の家で。力仕事でも頼まれてたみたいで、頑張って働いてたよ」
「…へえ」
「明日はぜひ来てくれだってさ、樋本家。お前も気にいられてんな、奥さん瀬津のことすごい気にしてたぞ。ちょうど上のお兄さんの…しはる、くん?も帰ってきてるみたいだったし」
ああ、詩悠さん…。ハルと同じモデルのように整った顔で、ハルと似てもつかないテキトーな自由人。ハルが昔から詩悠さんに振り回され続けたのは言うまでもない。
同時にどんな弱みを握られているのか、ハルが詩悠さんに逆らえないのも昔からだ。きっと今日の手伝いとやらもあらかた詩悠さんからきたものだろう。
あきらかに話しかけられることを拒んでいる風に見えるハルの勉強姿勢を思い出すと、会うに会えない。会いたい、顔を見たい。だけど、なぜか冷たい目で見られるんじゃないかという小さな恐怖がある。俺のこと相手にしてる暇なんてないんじゃないか、と。
「明日のが今日より忙しいだろうし、息抜きがてら行ってやれば?」
「んー…」
応えに迷っているとちょうど着信音が響く。父さんの携帯かと思って無視していたが、携帯なってるけど、と声をかけられてやっと自分のスマホだったことに気づく。画面をみると浩二さんからだった。折り返すというのは嘘ではなかったらしい。
「ちょっと出てくる」
「おう」
居間から離れた土間に出ると月明かりで薄青い空間が広がる。夏の虫の鳴き声が蒸し暑いなか涼しく響いていた。
「もしもし、浩二さん?」
「ああ、やっと出た。何回折り返しても出ねーんだもん、お前」
どうやらちょうど寝落ちしているときに電話を返してくれていたらしい。相変わらず垢抜けた、難しいことなんて何も考えてなさそうな声を聴いているとぐちゃぐちゃになりかけていた頭がすっと落ちつくのが分かる。
「夏はこっち来ねぇの?」
「今んとこ行く予定はないけど」
「あーそう?もし来るんだったら説明会とか施設紹介とかいろいろ手配するけど」
チャラいくせに。
こういう行動力と気の使える優しさといい、ガラの悪い見た目からは想像できないくらいこの人は面倒見がいい。
「最近勉強してないと逆に不安なんだよ」
「頑張ってんじゃん。模試も上がってるんだろ?」
「まだまだだけどね」
「ま、気が向いたらまた連絡してくれや」
「やっぱ行く」
胸のうちを話せる誰かがいるというのはやはり心強い。電話越しに笑い声が聞こえた。
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