第5話
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屋上扉についた小さな窓からは四角く切り取られた青空が見える。小学生の頃も、中学生のころも、普段立ち入りを禁止されている屋上に入れる時はなぜだかわくわくしたものだ。小さな窓枠から広い屋上をじっと眺めていられるほど今の俺は大人じゃないらしい。
いまだ机に苦戦しているハルを放って、鍵のかかっていない屋上の扉を開けた。涼しい風が吹き込み髪がまとわりつく。こうして外に出てしまうと、狭くはない校舎がずいぶん閉鎖的なものに感じる。
日の当たる温かい屋上に足を踏み出すと、振り返ってハルを待った。逆光でただの黒い影にしか見えないけど、相変わらず格闘しているのは音で分かる。
確かに俺とハルは二センチ、いや、確か一センチちょっとしか身長は変らなかったけど、肩幅から肉の付き方までハルは俺と比にならないくらいしっかりしていた。基本的に細い俺はそんな体格にあこがれてもいたわけで、自分のひ弱な腕を見て思わず唸った。顔も良くて性格も良くて、運動もできて体が完璧。しょうがない、惚れないわけがないんじゃないか?そう自分で自分に頷く。
やっと屋上の小ぶりなドアをくぐったハルは大袈裟に溜息を吐いていた。
あたりを見回すと、胸元あたりまでの高さの白いフェンスに囲まれたごく普通の屋上であるが、見晴らしの良さと吹き抜ける風の気持ちよさが心地よかった。
「あー長かった」
「ちょうどいいじゃん。少し汗でもかいたほうが風が気持ちいいよ」
二人してフェンスまで行き、グラウンドを見下ろした。思いのほか強い風が耳元でうなった。
しばらくの間、この見慣れない景色に、どこか憧れや夢を持った景色を無言で眺めていた。
「…カップルばっかだな」
そんな沈黙を破ったのはハルだ。ハルの口からこの手の単語を聞くと、一瞬ヒヤッとするのはいつものこと。たしかに眼下を見渡せば男女のカップルが多く見えた。手を繋ぐまではいかないものの、楽しそうに肩を寄せ合って笑いあっている。
「ん、笹山だ」
「隣にいるのは彼女か?」
「そうそう、後輩の女の子。あれ?あれ風間じゃねぇの?あれ誰」
「あーあの人、風間の姉ちゃん。サッカー部では有名よ」
流石に表情までは見えないものの、立ち姿から風間であることは分かる。その隣にはまたなんとも綺麗な女の人が立っている。
「うわーまたまた、綺麗な人だな」
「あれで風間のこと怒鳴り散らしたりすんだもんな。風間もあの人にだけは頭が上がらないって感じで」
「見てみたいな、そんな風間」
「見物よ、そりゃもう」
ひひ、と口をゆがめてハルが笑った。
「…ゲスが透けて見えてんぞ」
「いつもいい子なんだから、誰もいない時くらいゲス野郎な樋本晴久でいさせてよ」
またそんなことを言う。瀬津だけ、瀬津だから。特別な意味を持っているわけではないその言葉。わかってる。友達として、だ。
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