第6話


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 自分でも聞いたことがないくらい、低く掠れた声しか出ないことが情けない。弱々しく震え、聞き取れないほどに掠れた吐息のような声。

 恋愛対象でもない、ただの友達。

 俺は今、唯一自分を受け止めてくれたかもしれないたった一人の男を自らきったのだ。もしかしたら、なんて考えられた綺麗ごとのような可能性を自ら捨てたのだ。

 友達でいたいと願ったのは誰だ?何も言うつもりもなかったのに、全ての可能性を投げ出したのは誰だ。

 ああ、終わった。これで何もかも、終わったんだ。俺はやっと終わらせられたんだ。これでいい。まったくどんな突発テロのようなシナリオだ?でも、いいんだ、これで。何も悪いことなんてないから。俺が俺の判断を否定してどうする。

 報われる必要なんてないんだ。どこまで行っても、どれだけ頑張っても変えられないものなんてたくさんある。そんなたくさんあるうちの1つ。極めて鋭く、痛い1つ。

「ハルは俺の、親友だよ」

 正解なんて知らないし、何が正しいかなんてその時々で変わるものだ。後悔なんてして当たり前。誰が何を許せばいい、俺が俺を認めればいい。俺の最善はいつだって自分を守るものだ。ひどい現実を叩きつけて、これがお前の知りたかった本当のことなんだって。

 なあ、晴久。お前はどう思う?

 俺の言葉を聞いたハルはまた目を見開き、俺の顔を覗き込むようにじっと見つめた。笑ってやりたかったのに、どうにも口角が上がらない。俺が表情を繕おうとしている中、ハルは顔をゆがめて笑った。いつものように眉を下げて、しょうがないとでもいいだしそうに。ああ、そうだ。お前は笑顔を作れるんだったな。
 けれどいつもはくっきりと見えるえくぼは曖昧に影を作るだけだ。

 目の奥がじんと熱くなる。涙がひりつくのがわかった。体が震える。

「……そっか。瀬津は俺の、悪友だな」

 相変わらず掠れた声でそう言うと、無理矢理にハルはにかっと笑った。

 いつも通りの満点の笑顔。ぎこちない笑顔とも違う。なのに俺は、どうにもその笑顔が安堵を含んでいるように思えてならなかった。

 俺も笑おうとしたが、笑おうとすればするほど、顔が崩れる。気を抜けば涙がこぼれ落ちそうだった。


 俺は、笑えなかった。


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