ネオンの微熱


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「お願い……っして」

ぎりぎりと噛まれた唇は震えている。息をつめたその口から飲み込み切れず漏れる声。痛々しくてたまらない。

苦しい、苦しい。苦しいのは俺じゃないはずなのに。痛いよ、俺はどうすればいい?ああ、逃げたい、耳を塞ぎたい。早く。早く、戻りたい。やめろ、もうやめてくれ、これ以上聞かせないで。痛い痛い痛い。壊れてしまう。

ピキピキとヒビの入る音がする。何かが剥がれ落ちる感覚がする。大事なものが抜け落ちる恐怖に狂いそうだ。やめろ持っていくな。俺の、俺だけのものを奪うな。早く、早く戻ってきて―
「…ころ、してっ」

——っ



「…っ!っは……はっ」

柔らかい日差しが差し込んできている。穏やかな天気だというのに、ひどい寝汗だ。やけに胸が苦しく呼吸は浅い。なんだろう、何か、夢を見ていた。いつだったか経験したことのあるもの、痛み。締め付けられたように胸が痛く、汗だか涙だか分からないものが頬を濡らしていた。

思い出せそうで思い出せない。考えれば考えるほど、遠くへ行ってしまう。つかもうとすればするほど、霧のように散っていってしまう。なんだったっけ。俺は夢を見てたんだっけ…。俺は今何を考えてたんだっけ…。

汗で張り付いた寝間着だけが、ひどい夢を見ていた唯一の証拠だった。何度かあるのだ。何かに間に合わないと泣き叫ぶような夢を幾度か見た。焦りと恐怖で頭がはちきれそうになる、あの焦燥感でいつも目が覚める。なのに起きてしまうと、思い出せない。そのもやもやがずっと残るのだ。あの夢は、何かとても大切なことのような気がするのに。

騒がしいカラスの声に徐々に現実に意識が向いていく。かすかな夢の記憶は日常が戻るにつれ薄れていった。

枕元で充電器に差しっぱなしになっているスマホを開くと、高校のサッカー部からの連絡が来ていた。年に五回ほど、予定があう人が集まっては飲んでいる。そんな変わらない仲間に安心すると同時に、なんで会えないんだろうな、と頭をかすめる顔も変わることがない。

「…久々に顔出してみっかな」

東京へ進学した風間が顔を出すからか、今回はやたらと参加の返事が多いようだった。


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