ネオンの微熱


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 11時にいつものバーで。

 味気ないメッセージを着信が伝える。土曜日にも仕事で多忙を極めていたらしい入間さんから連絡が入ったのは日曜日の朝だった。いつもは金曜日に入る連絡がなく、若干そわそわとしていたことを認めたくはない。

 夜の11時なら、まだ半日以上の時間がある。日曜日はあまり研究室にも顔を出してはいないし、することもないし暇すぎる。

 なぜか俺が暇を持て余している時には狙ったように瀬津から連絡が来ていたりするが、今日のところはスマホも静かだ。通知欄には何度も無視をしていた実家からの帰省命令のみが未読になっていた。

 そういえばもう実家に帰ったのも二年前が最後かもしれない。親や兄弟には大学の卒業式で会っているが。

 やかましい地元が恋しくないわけではないが、あまり家族と顔を合わせるのも気が進まなかった。お節介な近所のおばさんとか、やたらと近く馴れ馴れしい他人との距離感だとか。彼女はいないのか、もうだれだれさん家の息子さんは結婚したとか。孫を抱きたいとか、当然の願望だろうけど俺にはできない。弟と妹がいて本当によかったな、なんてこの年になっていまさら思う。

 このままだらだらと時間を無駄にしていても考えたくない問題ばかりが頭に浮かぶ。いい加減着替えて外にでもでようか、と思った時だった。あの生意気な後輩から無遠慮な着信が入っていた。

 あらかた年上の俺をパシリに何かさせたいだけだろう。めんどくさく思いながらコールに出ると、思った通りオンラインゲームの人員が足りてないから今すぐログインしてくれとくだらない要件。

「お前なあ…浩二さんも暇じゃねえぞ」

 めちゃくちゃ暇を持て余している事実を言うと、瀬津はますます調子に乗るからな。まあやるけど、ゲーム。もちろんやるけど。
 
「その調子で俺以外の先輩にもそんな生意気なことしてないよなお前?そうも年上コキ使ってたらいつか刺されんぞ」

 脅したところで瀬津は電話越しにヘラヘラと笑うだけだった。
 まあコイツはなぜかしら可愛がられるタイプだし、俺みたいに嫌に平凡なリーマンをホテルに連れ込んで殺されかけることもないだろうが。

 思い出し思わず身震いする。人ってホント見た目によらないよなぁ。一度いかにも気弱なリーマンにセックスさせたら、そいつがヤバイ薬は飲ませてくるわ一歩間違えたら死んでもおかしくないプレイしてくるわで散々な目にあったことがある。もはやトラウマだ。さすがの俺もあれのおかげでだいぶ懲りた。

 逃げ出したところを偶然鉢合わせした入間さんに捕まったのだ。あれがなかったら今でも行きづりの関係続けてんのかなと思う。少なくとも入間さん一人に捕まってしまっている今のようにはなっていない。
 
「クッソなんであんな人に振り回されてんだよ俺は」

 年下の遊びにも付き合わされるしよぉ。思うんだけど、俺えらいよね。ほんと頭よくて、気も使えて空気も読めて、酒癖は悪くないし、おまけに優しい!超優しい!
 
「俺ってマジで優しいー‼」

 叫んでみたら、隣の部屋から壁をガンと叩かれた。


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