1/8 →

 ことの始まりは三カ月前だった。たまたま学祭の準備期間でいつもより二時間ほど早くに家を出た。早朝で肌寒く、まだ太陽の上がり切っていない薄暗い空の下で、その不健康な生白いふくらはぎは浮くように目立った。

 パジャマなのか、部屋着なのか、ダルダルの灰色のトレーナーに体育着のような安っぽいハーフパンツ、微妙に伸びた髪は後ろで雀の尾のように結んであった。人影一つ通らない路地の隅でゴミ出しをするその後ろ姿に気が付けば声を掛けていた。

「……誠司くん?」

 そのとき何故その名前が出てきたのかは分からない。もう10年以上も顔を合わせていない近所のお兄さん。やるせない後ろ姿はかつての彼とはまったくの別人のはずだった。

 彼はびくりと肩を震わせ、ゆっくりと後ろを振り返った。その様子は深夜に怪奇現象にでもあったのかというほど恐怖と不信感に溢れている。かつての面影を残した切れ長の目を見た時、心臓が音を立てた。

「……亮…ちゃん…?」

 掠れて上ずった声が昔の俺のあだ名を呼ぶ。その呼び名を聞いた時、胸の中で何かが弾けたように嬉しさが広がっていった。背丈も顔つきも、すっかり変わってしまっている中で、昔と変わらない頬のホクロにたまらなく懐かしくなる。

 興奮する俺とは別に、誠司くんは浮かない表情に引きつった笑みを張り付けていた。



 1/8 →

戻る
Top