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「誠司くんー買ってきたよー」
「遅い」

 今や自分の部屋のように躊躇なく出入りしている誠司くんの部屋のドアを開ける。だらしなくベッドに足を放り投げ、上半身は床に寝そべる気の抜けた体勢で誠司くんは読んでいた漫画から顔を上げた。

 昼間だというのに遮光カーテンに遮られた部屋の中では四六時中白い電気の光が眩しかった。床にはコンビニ弁当のゴミやジャンクフードの残骸が散らばっている。2日来ないだけでもうこれだ。

「遅いっつったって俺今日4限まであるって言ったじゃん。物理的に無理なの」
「俺のためならどこにいようが飛んで来いよ。俺をなんだと思ってんだよ」
「はいはい、文武両道のもったいないクソニートだと思ってますよ」
「……うるせーな」

 チッと舌打ちしながらダルそうに起き上がった誠司くんは今日も顔色がよくない。

「ねぇ、たまには外に出たら?ちゃんと日光浴びないとおかしくなるよ」
「…無理。出たくないし、わざわざ出なくてもお前が来るから不自由しねぇよ」
「……」

 来ないと来ないで怒るくせに、行ったら行ったで帰れと言われる日もある。わがまますぎやしないか。

「あー!なんだよ亮、これ俺が頼んだのと違う味じゃねーかよ!」
「なかったんだよ!んなもんばっか食ってると体壊すぞ!」

 買ってきたポテチを開けガサガサと食べ始める誠司くんを無視して、俺は荒れた部屋のゴミ掃除を始めた。ジャンクフードと引きこもり生活のせいでぷよぷよと引き締まることなくお腹についた肉を掻きながらパソコンをいじる誠司くんを見て思わずため息を吐くが、心底うんざりしているわけでもなかった。

 かっこよくて、頭がよくて、頼りになる、そんな憧れの近所のお兄さんは今やもうそこにはいなかったが、変わらず俺を可愛がっていてくれるのは正直に嬉しかった。

 誠司くんは俺が小学校に入る前から、近所に同い年の友達がいない俺の遊び相手になってくれていた。毎日毎日、誠司くんと遊ぶことだけが楽しみで、誠司くんが学校に行っている間は泣き喚いていたという話もある。今思えば年の離れた俺の遊びによく付き合ってくれていたな、と思うが、それもあるときを境にぱたりと止んだ。

 親からは、誠司くんは地区の小学校じゃなくもっと頭のよい進学校に編入するのだと聞かされた。忙しくなるからもう俺と遊ぶ暇はないのだ、と。誠司くんが頭がいいのは子供ながらに分かっていたし、周囲の大人たちも皆、誠司くんはアルファに違いないと噂していた。

 俺もその言葉をまったく疑うことなく、泣きながらお別れの手紙を書いたものだ。もう会えなくなるわけではないのに、なぜか一生会えなくなるような気がして無償に悲しかったのだ。

 それから彼に一度も会うこともなく、数か月前に10数年ぶりに再開したことになる。小学生のころに進学校に行ったあとは、有名大学に進学したというような噂を耳にした。

 しかしそんな誠司くんは今やヒキニートになってしまっている。何が彼をそうさせたのかは分からないし、正直知りたいと強く思うわけでもなかった。

 誠司くんは賢いし、なんなら働かなくても今みたいにただ部屋でパソコンを開いて、漫画を読んでゲームをしているだけでも、俺には社会に貢献しているかのように思えてしまったのだ。

 小さい頃から大人にもてはやされ一目置かれてきた誠司くんは子供目に見ても立派だった。そんな彼のすることはなんであろうと正しくて、そして漠然とすごいことなのだ、と思っていた。

 そんな刷り込みのような思いがあるから、きっと今パシリにされていても、まんざらでもないのだろう。



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