2話 慣れても馴れるな


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 ミーティングルームというものがある。
 二階教材室の隣、スクリーンも設置されていてちょっとした説明会なんかによく使われている。しかしこの教室、申請すれば生徒も使うことができるのだ。
 
「あっあぁっ、ぅん…そこぉ」
「ここがいいのか?」
「そこっそこ…もっと…もっとついてぇ…」

 スクリーンに大きく映し出されるのは、激しく乱れる外人風の濃い美人のアヘ顔に、バカでかい喘ぎ声。
 
「うわぁ…」
「もっとちゃんと見とけよ」

 先輩はさっきからスクリーンなんてちらりとも見ずに、手元の参考書を見ながらノートに計算を書きつけていた。さすが、腐っても受験生。それにしてもAVをBGMに勉強するなんてどうかしている。
 
「あれれちょっとぉ、何俺の顔見てんの?久世谷くんはスクリーンを見ないと、なんの練習にもなんないじゃん」
「いやーえっと…」

 ノートから顔を上げた先輩がにやりと笑いシャーペンで机をたたいた。
 
「どう?」
「………やっぱ無理」

 顔を逸らしながらそう言えば、盛大に吹き出した先輩がゲラゲラと笑い始めた。
そんな反応に少しムッとする。AVくらい普通に見れる。でもここまで積極的で媚びてる女はちょっといただけない。ていうか世の中の男はコレで勃つのか?

「ほんと面白いよね、久世谷くん。逆に普段どうやってオナニーしてんの、まじうける」
「先輩はこれで勃つんですか?」

 半信半疑で先輩の股間に手を伸ばせば、先輩は瞬時に身を引いた。

「いやぁ!エッチ!」
「え、まじで勃ってんですか?」

 手で隠された下半身を目を凝らして見つめれば、先輩は諦めたようにその手をどけた。
 ……特に普段と変わった様子はない。

「ん?不感症?」
「失礼な!それはどっちかっていうと久世谷くんだろ!?だいたい俺は、あんな下品なAVは好みじゃない。俺はもっと色っぽいセクシーなおねぇさんが好きなんだ!」
「へー変態」
「その綺麗な顔で言わないで!なんか興奮する…」

 女の喘ぎ声を聴いても眉一つ動かさなかった先輩が少し顔を赤らめた。
 そう、こういう反応が楽しいのだ。藤崎先輩はやっぱり俺の顔が好きだ。

「それにしても、何が無理なの?」

 シャーペンを放りだした先輩が椅子にもたれかかって聞いた。

「何が…ですか。でも先輩だってこれで勃ってはないじゃないですか」
「いや、俺はこういう安いビッチ系じゃ興奮しない。隠れてていいから芸術的なのが好きなの。それかもっとこうさ、口元にほくろあるエッチなお姉さんがスーツ姿で白衣とか着てて、「あら千紘くん、今日はどうしたの?」とかねっとり言いながらちんこ扱いてくれる、みたいな」
「ストライクゾーンせっま」
「久世谷くんが眼鏡で白衣とかだったら抜けるなぁ。あ、和装とかもいいな」
「やめてください」

 遠い目をして物騒なことを言い始めた先輩が怖ろしく、慌てて軌道修正に入る。

 この数分で知りたくもない先輩の性癖を知ってしまった。要するにこの人はあれか?虐められたい系の人か?ハイヒールで踏まれたい系の人なのか?っていうかなに、この人って男でも抜けんの?瀬戸が言ってたメンクイってのは、男もオカズの対象になるってことなのか?

「だいたい先輩の性癖なんて興味ねぇよ」
「あ、そうそう、久世谷くんの話だよ。逆に何で抜いてんの」
「えぇ…別にそんなオカズ必至ってわけでも…」

 なんかムラムラしていつもテキトーに出して終わってるし、正直ろくなオカズなんてない。強いていうなら生理現象?ただ気持ちよくないたいというか。

 ああ、要するに俺、女の顔とか体とかってどうでもいいのか。あんなふうに甘い声で寄ってきて、媚びるように体を触ってくる。それが駄目なのか?

「…確かに挿れたいし、胸だって触りたいけど、そこに精神的な何かを求められても困るし。俺はただ物理的に気持ちよくなりたいだけで、黙って体差し出しとけよって思うっていうか、鬱陶しいというか」
「うわクッッッズ」

 さすがに引いた顔で俺を見てくる先輩にはっと気づく。

 そうだ。これを口に出すから駄目なのだ。過去に友達という友達に距離を置かれたことを思い出せ。

 …でもやっぱり分からない。

 好きだからヤりたいとか、ただ気持ちよくなりたくてヤりたいとか。これのどこに違いがある。もうセックスしてればなんも変わんなくね?

 それとも、俺にも好きな人ができればわかるのだろうか。

「ってかそれもう、オナホでシコってれば解決じゃね?」

 先輩がぼそりと呟き、ぐっと伸びをして肩を回した。

 そんな姿を見て不安になる。呆れられただろうか。やっぱり自分が異常なのだろうか。
 別に女とも人としての付き合いはできる。でもそこに、なにか下心を感じてしまえば途端に無理になってしまうのだ。

 確かに世に言うクズなんだろうな、とは自分でもわかる。性欲処理としてしか見ていないようなものなのだから。

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