期会があれば
軍の本部に着いて軍人に案内されるエド達、スカーの件があったが意外にも落ち着いた本部の中…「あ…無事だった…」
「ウィンリィ…」
案内された一室には保護されたウィンリィと…
「やぁ…鋼の錬金術師君」
「……」
「ブラッドレイ大統領!」
「なぜここに…」
国のトップである大統領がウィンリィと一緒にお茶してる状況に兄弟達はもちろん驚く
「街中の騒動について憲兵に訊いたら君達の幼馴染が保護されていると言うじゃないか…大切な人材の身内だからね…丁重にあつかわなければ」
優雅にお茶しながら平然と話すキング・ブラッドレイを令美も冷静に絶対零度の瞳で見る…数分前に戦った者同士とは思えない…それにここで戦闘を開始するという愚策なことは2人ともしない
「では、おじょうさん若者が来たので年寄りは失礼するよ」
「あ…はいどうも…」
「素直ないい娘だ大切にしたまえよ…あぁ」
キング・ブラッドレイはすぐに席を立ちウィンリィに挨拶をして部屋を出ようとするが…令美を見て…
「…今度はあなたもご一緒にお茶でもいかがかな?
…カンナ レイミ君」
「…期会があれば…」
わざわざ令美に声をかけた大統領は令美の素っ気ない返事に何も言う事なく行ってしまった
「…大統領に向かって態度でけーな…」
「レイミらしいよね」
大統領相手にいつも通りの令美の返事にエドはもう怒るよりも失笑する、アルは慣れた
「それより何の話してたの?」
「…何も…エド達とは幼馴染で昔から一緒だったとかとりとめのない話…」
「…へぇ…」
大統領が去ってからすぐに令美はウィンリィに問いかける、ウィンリィはまさか令美から真っ先に話しかけてられるとは思わなかったから内心すごく驚いてる…だけど令美の変わらない態度に少し安心もした
「……エド…父さんと母さんの事いつから知ってたの?
約束よ 全部教えて 」
ウィンリィはエドに向き合い、父と母についてきいた
エドもイシュヴァール人からきいた…
ウィンリィの両親の最後を話した
話が終わり、軍の車でホテルに戻る間車内は静かで誰も何も話すことがなかった
『父さんと母さんは最期まで人のために尽くしたんだね…安心した…やっぱり父さんと母さんはあたしの誇りだよ…
でも何よりもまず生きて帰って来てほしかった
待つのはつらくて…怖いよ…』
「…」
エドから聞いた話にウィンリィはそれだけを言った…令美には分からない感情だった
「あ!ちょうどよかった!ロックベル様にお電話が入っております」
「あたし?」
ホテルに戻ればロビーにいたフロントからウィンリィは呼び止められた…電話先はただ今ウィンリィが働いてる店の店長からだった
別に内容を聞く気なんてないが人より聴力が良くなってる令美は離れていても内容がきこえる…電話の内容はウィンリィの客がウィンリィにオートメイルを見て整備してほしいから早く帰って来てくれと…
「…ごめんね…すぐ戻るね…」
“がんばるから…ありがとね”…とウィンリィは静かに涙を流しながら、耳からあたたかい騒ぎ声を聞いていた
「…本当に一人で大丈夫か?」
「うん、ラッシュバレー駅にはガーフィールさんが迎えに来てくれるって言うし…」
ウィンリィはすぐに駅に向かいラッシュバレーに帰ることに決めた、エド達も護衛と見送りのため一緒に駅まで来た
「…あの時、止めてくれてありがとね…
あたしにも待っててくれる人達がいるんだよね…その人達に顔向けできなくなるところだった…
父さんと母さんの事はまだ心の整理がつかないけど…」
ウィンリィはいつもの笑顔ではないけど…それでも振り返ってエド達に笑顔を見せた
「皆、待ってくれるから…皆のおかげで耐えられる」
◇◆◇◆◇◆
「…レイミ、ありがとう…
あたし、きっとレイミの言葉が無かったら銃を下さなかった…」
汽車が出るまで少し時間があり、待ってる間ウィンリィは令美に伝えたかった
「……そうした方がいいと私が勝手にしたこと」
「…でも、あの人を撃ってたら後悔したと思うから…止めてくれてありがと…何も知らないあたしに怒って教えてくれて…」
真っ直ぐ令美を見つめるウィンリィが苦手だった令美…だけど今日は珍しく逆で目線を合わせないウィンリィを令美が見つめていた
「本当に褒められる事はしてない
私はすでに何人もの命を奪ってきた…恨まれて憎まらて当然な事をしてきた…だから人よりそーゆーのに詳しいだけ…、役に立たないけどね」
「…そっ…か…ごめんあたし何も知らなくて」
「知らない方がいいことだってある…そうでしょ」
ウィンリィは不思議な気分になった…気まずい様な無知な自分に恥じてるのか…心がザワザワと揺れ動く…だけど一つだけ分かる…令美の素っ気ない態度の中にはウィンリィを気遣う優しさがあるって…
だからウィンリィは…
「……あたしそれでもレイミのことは知りたい」
無意識にウィンリィは令美の手を掴んでようやく目線を合わせた
「後悔したっていい…ううんレイミの事知らない方が絶対もっと後悔する、そんなのイヤだから…!だから…」
「…」
ウィンリィの瞳に令美の驚いた顔が写る…ウィンリィにとって初めて見る表情…感情表現があまりない令美にそんな表情を自分がさせた事になんだかウィンリィは嬉しくなる
「あたし…レイミと友達になりたい!
どんなレイミでもあたし絶対離さないから‼︎」
勢いのままウィンリィは令美に想いを伝えた、ストレートすぎるウィンリィの言葉に静かにしてたエドとアルが気まずそーにしてる
「…勝手にすれば…
どうせ断っても諦めないでしょ、ウィンリィって…」
「…うん!」
仕方なさそうに許可する令美だが、完全に照れ隠しだった…令美はあんなに真っ直ぐに気持ちを伝えられたことがなかったからだ
そんな令美の反応にウィンリィは少し令美との距離が近づいた気がした、エド達を見れば2人とも頷いていてもっと確信した
「オートメイルの手入れ忘れないでね」
「おう」
汽車に乗ったウィンリィは窓からエドに注意とアルの磨き油を送ると軽くあいさつをする
「レイミも体には気をつけてね」
「…わかった」
「…死なないでね」
今回のことでウィンリィは更にエド達を心配そうに見るそれに兄弟が返事をしてもウィンリィの心配は簡単に消えない
「……今度」
「え?何?聞こえないよ」
汽車が出るベルがけたたましく鳴り響くのでエドの声がウィンリィには聞こえない
「兄さん?待ってよ!兄さん!…じゃあねウィンリィ!」
「あっ…うん!」
あいさつもなく帰り出したエドにアルは慌ててウィンリィにあいさつしてエドを追いかける、ウィンリィはエドが何を言い出そうとしたか問いただす…するとエドが振り返り
「…今度おまえを泣かせる時は嬉し泣きだ‼︎
絶対アルと二人で元に戻って嬉し泣きさせてやったからな!覚えてろ‼︎」
強引なエドの約束にウィンリィを笑顔にした
ずっと達観してた令美は…ウィンリィとは違って呆れた
「…ほんと死に損ない…や、死んでも生きかえりそう…
心配するだけ無駄ね」
“じゃあね”と令美もウィンリィに軽くあいさつしてからエド達の方へ行く
◇◆◇◆
「(…あ…)」
ウィンリィは汽車が出発するまで3人の背中を見つめた…“青春クサッ”っとからかうアルに怒るエド…そんな2人の中に当たり前の様に入って行く令美…
「(…幼い頃あの場所にはあたしがいたっけな…)」
そんな事今まで気にしたこと無かったウィンリィだが、3人の背中を見て…気付かされた
「(…あぁ…そっか…あたし…
今さら気づくなんて…あたしバカだなぁ…)」
そしてそれが遅すぎたことも…幼い頃から兄弟を…エドを見て来たウィンリィはよく知ってる…きっと本人達はまだ気づいてないだろうけど…
「(仕方ないよ…
だってあたしレイミのことも大好きだもん)」