人が食べるものじゃない‼︎



『…もう止めろ、アリスを使いすぎだ』

『平気、私には癒しのアリスがある…自分の身体は自分で守れるから気にしないで』

『…いくら令美がアリスで癒しても…治せないものがある…だから僕や棗は令美にアリスを使って欲しくないんだ』

『これ以上無理する必要なんてない…だから…』


  『…治せない…?無理するな…?

            意味わかんない…』


目覚めは最悪だった…

「…ウザ」
視界に入ってきたのはまず暗闇で令美は何か水っぽい液体に浸かって横になっていた…ぼやけていた視界が鮮明になり周りを見渡せば広い空間に瓦礫と海みたいな黒い水…所々に炎が木材についてあって照らしてくれている

「…っ‼︎…あぁっ…キツ…」

何かわからない水に浸かっていたくなくて身体を動かそうとする令美だが、その身体が鉛のように重く無理に動かそうとすると感じたことのない痛みが襲う、それでも令美は必死に水から這い出た
「…無様すぎる…」
癒しのアリスが無くなったくらいでこれほどまでに身体が悲鳴をあげるとは想像してなかった令美、確かに少し前から頭痛や身体がダルかったりしたが…棗のように血を吐いて動けなくなるのはまだまだ先だと軽視してた

「…最悪、こんな訳分かんない場所で…クッサいし…」

自分のポンコツすぎる身体に苛立ってる令美は血生臭いこの場所で仕方なく無理のない範囲でアリスを使う

「…まだまだこの身体にはもってもらわないと困る…ポンコツが…」

癒しのアリスが無いが他のアリスを使えばそれに近いことはまだ出来る

        「…ほんとムカつく…」




          ◇◆◇◆◇◆





「…レイミ‼︎しっかりしろ‼︎おいレイミ‼︎」
「あ〜眠ってる姿もなんて美しイ〜レイミちゃん〜」
「黙ってろ!バカ王子‼︎」

2人の騒がしい声が聞こえて令美は自分がまた眠っていたことに気づく、そしてキャンキャンとうるさい2人の声に苛立ちが湧く令美

「……五月蝿い、あんたらその舌引っこ抜かれたいの…」

「…良かった生きてる、それに本物だ…この悪口」
「間違いないネ」
不愉快な目覚めにうるさいエドとリンを黙らす令美の悪口のお陰で2人は令美姿のエンヴィーでないことを確認できた

「こんな所にまで一緒にいる僕らって赤い糸で繋がってると思わなイ」
「それでここから出る方法はあるの?」
「無視はやめテレイミちゃん」
相変わらず令美に猛アピールするリンを無視した

グラトニーの腹の中と思われる3人のいる空間は空も地面も暗く、この空間がどれほど大きいのか分からないエドの話では地面を錬成して穴を開けそこに松明を落としてみたが底が見えずにどこまでも落ちていったらしい

話を聞いて出れる可能性がないと知った令美は遠目で周りを見渡すが暗いだけ
「(…エドだけだったら瞬間移動を試せたけど…このバカ王子には知られたくない…)」
こんな訳分かんない空間で瞬間移動を使ったところで出れる保証もない反対に問題が起きる可能性もある中リンにバレてまでアリスを使うのは止めだと自己解決した令美は信じられないモノを目にする

「…何ソレ…」
お腹が空いたと言ったリンのためにエドが料理を作った…

自身の履いていた革靴を使って…

「絶対!いらない‼︎死んでも食べない…そんなの人が食べるものじゃない‼︎」
不思議空間なので物理テレポートを使っても何も出てこないが、靴を料理する2人を令美は遠くから軽蔑した目で傍観するだけ

「あ?何だコレ?」
錬金術を使って料理するエドの側に科学で使うビーカーがあった…この空間はグラトニーの腹が呑んだ物がある、ほとんどが瓦礫で後は人骨が何体か…なのにこんな所に傷ひとつないビーカーがある違和感にエドはすぐ気づいた

「…それ私の」
「あ?…何でこんなの持って…何に使ったんだよ」
体調不良だったから薬を作るためにアリスを使った、『不思議な薬を作る』アリスは物理テレポートがなくてもその場にある物で様々な薬が作り出せる…何故ビーカーや薬がこんな場所で作り出せるのかは令美にも分からない…もっと理解出来ないはずのエドは少し慣れたのかアリスのせいだと分かると無駄な質問は省いていた

「…薬を飲むために必要だったの…」
リンの前で薬を『作った』なんて言えないため微妙な嘘をつく、勘の鋭いリンにバレたところでアリスの事を知られなければいい話だからだ

「薬っ⁉︎」
「レイミちゃんどこか具合いノ⁉︎」
怪我一つした令美を見たことない2人は薬の単語に過剰に反応した
「レイミちゃん大丈ぶ…」
「体調悪りーなら何でもっと早く言わねーんだ!まだどっか悪りーのか⁉︎」
「…平気、薬飲んで休んだからもう体調も悪くないし」
特にエドがリンの言葉を遮ってまで真剣な顔で聞いてくるので令美は嘘なく返事してしまった

「…本当か?」
「うん、結構薬の効き目がよかったからもう大丈夫」
「…」

『ならよし!』…と令美の言葉を信じたエドが納得して、またリンと2人で靴を食べだした…何故かリンが怒っていてエドにいちゃもんつけて2人でケンカし始めてたが


        ◇◆◇◆◇◆




「すまないナ」
食事が終わり、一息ついた時リンがエドにあやまった
「何が?」
「俺をかばったばっかりにこんな所に放り込まれてえらい目にあってサ…レイミちゃんも体調悪い中ごめんネ」
「…謝られてもここから出れないから意味なし」
「レイミちゃん厳しイ‼︎」
リンの素直な謝罪に対して令美は相変わらずの冷たい返事…なのにリンは嬉しそう

「…俺は別にガキの時の修行に比べりゃたいした事ねぇし」
「どんな幼児体験ダ…」

「ここがどこだかわかんねーのは困るけどよ、とりあえずピンシャンしてるからおかげで出口が探せる」
「…前向きだなァ…」
落ち込まず他人を責めもしないエドにリンは呆れたような…そうでないような…顔をしていた

「ウルセッ!ちょっとでもあきらめたらアルの鉄拳と怒号が飛んでくるからな、弱音吐いてらんねぇよ…」


珍味な食事をして、少しの休憩を終えて…また途方もない出口探しを再開する、もちろんそのためにはこの血の海の中を歩かないといけない
「…普通にイヤなんだけど…気持ち悪いし…」
「文句言うな…探さねーと出口見つけれねーだろ」
汚物に拒絶反応する令美が行く前から文句を言う、浮遊のアリスで飛ぶことは出来るけどリンの眼もあるし体調が回復しきれてない今は出来るだけ力を使いたくない令美はこの血の海を歩くしかないのだが…それでもイヤな令美は唯一の強硬策にでる

「そこのバカ王子、私のこと抱っこさせてあげるから私を運んで」
「喜んで‼︎」
「オイッ‼︎」
なにがなんでも歩きたくない令美の作戦にリンが喜んで落ちた…今にも令美を抱き上げようとするリンをエドが止める、今体力が回復したリンが令美を運べようが絶対リンは力尽きる…その時令美はきっとリンを見捨てる…とエドは容易に想像できた

「レイミ!わがまま言うな‼︎リンはアルじゃ…」
「待てエド」

「…?……どした?」
令美を説教しようとしたエドをおふざけモードから真面目モードに変わったリンに止められた

「何か来るゾ!これハ…」

「あらら…明かりが見えるからもしやと思ったら…おまえ達かよ…」

リンが警戒した先から現れたのは飲み込まれる前に敵として戦っていた相手ー


      「やっぱり エンヴィー‼︎」






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