おふくろの味







  『…わかっているだろう…君も…

             その力はーー』



「なんでまた急に師匠の所へ行こうなんて思ったの?」

汽車に揺られながら令美の隣に座ってるウィンリィーが目の前の席の兄弟に『ダブリス』に行き師匠に会う訳をきく
「理由はふたつ、ここ最近どうにも負けっぱなしでよ…とにかく強くなりたいと思ったのが ひとつ」
「はぁケンカに強くなりたくて行くの?あんたらケンカ馬鹿?」
エドの返事にウィンリィーは呆れた、令美はまったく興味ない
「…なんて言うかこう…ケンカだけじゃなくて中身もって言うか…なぁ!」
「そうそう!」

「オレはもっともっと強くなりたい!」

「うん!とにかく師匠の所に行けば何か強くなる気がする!」

曖昧な例えしか出来ないエド達の説明にウィンリィーは呆れた…興味のないはずの令美も…

「…ふたつめは?」

「人体錬成について師匠に訊く事!」
「ボクら師匠の元で修業してたっていっても賢者の石や人体の錬成については教えてもらってないんだよね」
「そう、賢者の石が色々とぶっそうな事になってるからさここは思いきってストレートに元の身体に戻る方法を訊いてみようかと思ってんだ」
“師匠”や“修業”なんて単語、令美からしたら昔の漫画みたいな滝行など大岩持たされたりなど変なイメージしか出来ない

「もうなりふりかまってらんねーや師匠にぶっ殺される覚悟で訊いて…

訊いて…短い人生だったなぁアル〜」

「せめて彼女だけでも作っておきたかったよ兄さん…‼︎」

師匠の再会にまた恐怖して泣いてる兄弟に令美はまったく興味なかったが少しだけ気になったイメージは大男だ

「あっそうだ!元気の出る物!」
そんな兄弟にウィンリィーがバックからある物を取り出した
「じゃーんアップルパイだよー!」
「おっ美味そう、どうしたんだこれ」
「『途中で食べなさい』ってヒューズさんの奥さんが作ってくれたの」
出てきたアップルパイにエドはすぐに食いついて機嫌が良くなる…4人分だと思っているヒューズの奥さんはアップルパイをたくさんくれた、アルが食べれない分はエド行きだ

「レイミも…ホラ」
「…どうも」
エドが下品に(令美から見て)食べる中ウィンリィーから渡されたアップルパイを令美は素直に受け取った

「…こういうのも『おふくろの味』って言うのかね」
「…『おふくろの味』…」
しみじみとアップルパイを食べてなごむエド…そんなエドの言葉に令美はアップルパイをマジマジと見つめ味わうように食べる

「……」
「ヒューズさんも奥さんもエリシアちゃんもすごくいい人だった」
「…うるさい人」
「確かに、ヒューズ中佐って親バカで世話焼きでうっとーしいんだよなー」
「いっつも病室に兄さんをからかいに来てたよね」
アップルパイのせいで話題はヒューズにかわり、ウィンリィーとアル以外は愚痴になってるが
「…ほんとうに…『毎日仕事で忙しい』って言いながらしょっちゅう見舞いに来やがんの…

今度、中央に行ったら何かお礼しなきゃな…」

「…」




     ◇◆◇◆◇◆



「キャ〜!ステキ〜‼︎」

汽車に揺られ続けてたどり着いた場所はウィンリィーが来たくて楽しみにしてた街

「このオートメイル‼︎」

隣で宝石に目を輝かせてる女性とは違いウィンリィーはオートメイルに夢中、そんな若乙女とはかけ離れた姿にエド達は若干引いてる
「……暑い」

「ラッシュバレー‼︎

『にわか景気の谷』の名の通りイシュヴァールの内乱があった時に義肢技術を発達させて急速に大きくなった街よ『オートメイル義肢の聖地』とも言われてるわね」
「本当だオートメイルだらけだね」

街は岩に囲まれ街中はオートメイルに囲まれてるラッシュバレーには人が多く地形のせいもあり気温が高い…ついて早々エドは腕の事など気にする事なく上着を脱いでいて、もちろんウィンリィーや令美も上を脱いで涼しげな格好をしているがそれでも暑い

「未だに国内のあちこちで戦火が上がってるから義肢の需要は多いいみたいね、本当はこんな商売が繁盛しない世の中になればいいんだけど…」

『おおおぉぉ‼︎』
街中を見て回ってる中、道のど真ん中で男集団が熱く盛り上がっている

「…何アレ…暑…私ムリ、パス」
エド達は興味惹かれたらしいが令美は断固拒否、1人だけ日陰のある場所へ逃げて行った

「…勝手だな…オレらなんも言ってないぞ…」
「それぐらい暑いのが苦手じゃないのかな、兄さん」
「美・少女なんだから仕方ないじゃない!」
逃げた令美を見つめながらエドは呆れたアルがフォローし、若干一名…愛でおかしな感想を述べたウィンリィーに兄弟はもう何もリアクションしなかった…


日陰でアリスを使い涼んでいた令美の前に数分後エド達が戻ってきた…エドだけパンツ一丁でボロボロになってるけど
「…なにかあったの?」
「さっすが聖地(メッカ)と呼ばれる街ね!みんな研究熱心だわ‼︎」
「だからってなんでオレが公衆の面前でパンツ一丁にされなきゃなんねーんだよ‼︎」
どうやらエドのオートメイルに注目が集まりその場で鑑賞会が始まってしまい、結果パンツ一丁らしい

「…アホ丸出し、早く着替えてよ」
「あっはっはっ大通りでパンツ一丁になった国家錬金術師なんてそうそういないよ兄さん!」
「あぁそうですね、フンドシ一丁のアルフォンス君!あとレイミは黙れ‼︎」
令美とアルがエドを馬鹿にしたらエドは怒りアルを泣かしていた

「ったく……ん?」
「どうしたの?」
そうしてエドがやっと服を着ていた時、何やらエドが慌て出した…

「…無い…」
顔を真っ青にしたエドがコチラを見て静かに言った

  「……国家錬金術師の証…

          銀時計が無い…‼︎」

「えぇーーーっっ‼︎⁇」

まさかの事態に驚き叫んだのはアルだけだった


「…ハァ…本当何かやらかさないと気がすまないの…」


退屈はしないが毎回巻き込まれるのは面倒だと感じた令美はため息をはいた…









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