▽のちのち後悔するなんて聞いてない






青道高校に入学して、早1週間ー

「…だから野球部に入んないって言ってたでしょ」
「…ゔぅ〜千隼がいねーと調子でねーんだよ…クラスも違げぇから同じ学校なのにあんま会えねーし…」
「…」

東京に来て1人暮らしをするようになった私は入学式まで母と一緒に最低限生活出来るように教育されてたので忙しく…栄純に会えたのは入学式だった

久しぶりの再会して、やっと春休みの野球部の話でも聞こうと思ったら初めてクラスが別々になってまともに話すことは出来なかった…


この1週間で朝も放課後も部活の栄純とゆっくり話せるのは昼休みだけで…栄純は毎日私のクラスに来て昼ごはんを一緒に食べる…本当は部活の人と食べたりしたいだろうけど…

「仕方ないよ、野球部に入る女の子はもちろんマネージャーだけだし…」
「じゃあこの際マネージャーに‼︎」
「……私がマネ業出来ると思ってるの栄純」
「……」

栄純と同じ高校に通えて嬉しいけど…ここまで栄純と過ごす時間がないとは想像してなかった…これじゃ私来た意味が無い気がする…

「…栄純、部活って休みの日はないの?キャッチボールしようよ、私も体鈍ってきたし」
「っ‼︎いいのか!すぐ先輩にきいてみる‼︎」

さすがに毎日部活ではないと思い誘う、休みの日ぐらいゆっくりさせたいけど栄純喜んでるし、私も知人も誰もいない学校で孤立状態…体動かしてスッキリしたい




見学の時とか青道に来てからやらかした栄純の話は本人から熱く語られてるので知っている、なんでも“みゆき”?と言う人が最悪らしい…

相変わらずやらかして毎日走ってばっかだと…強豪校のシステムは知らないが今のままじゃ投手は出来ないらしい…“あの時千隼がいれば〜”と栄純が文句を言うが関係ない私を巻き込むな
「(…栄純は投手として呼んだんじゃないの?

  …栄純の球、おもしろいのになぁ…)」




朗報だと、急遽電話してきた栄純

なんでも明日の日曜日1年対2・3年の試合があり、もしかしたら出番があるとかないとか…
「…本当に出れるの?曖昧すぎない」
『…た、多分…だがもしその時出番があったら千隼がいねーとマズイだろ‼︎』
「…私は試合には出ないけどね…まぁいいや、どうせヒマだし青道の野球も見てみたいし行くよ」
『本当か!絶対絶対来てくれよ‼︎』
「はいはい」





休日に制服着るの嫌だったけど、ちゃんと青道に来た…そういえばグラウンドに来るのは初めてかも…
「…以外と人が多い…グラウンドも広ーい」
客席はおじさんばっかだけど…OBってやつ?女子が1人もいないとか…気まず〜

「(栄純ブルペンかな?…あのバカでかい声が聞こえないから…)」
試合前に声でもかけようと思ったのに栄純いないし、仕方なく試合が見やすいベンチに座ろうとしたら何故かおじさん達に避けられる…女が来るのがそんなに珍しいのか?



…程なくして試合は始まった

やはり1年と2・3年、力の差は歴然で初回でもう0-12

1年の投手はシニア出身らしいが、もう次の回は投げれないだろうな…
「(栄純なら投げるけど…)」

「何だよおい!みんなしてその顔‼︎まだまだ試合は始まったばかりだぞ‼︎」

いないと思ってた栄純が1年ベンチからかすかに聞こえた…何だいるじゃん、12点差で逆転しようとみんなに声をかけてる…栄純らしいな

なんと監督は審判で1年生全員試合に出すらしく2回で全員交代と叫んでる…しかも栄純が出た…

ライトで…

守備なんて全く練習してない栄純が取れるはずもなく…

上がってきた球をバンザイして…取れなかった…

「フフッ…栄純らしい」
あんな簡単なフライ取れなかった栄純は三塁に向かって球を投げようとしたが栄純の投げた球は急激に曲がりランナーに激突…ランナー狙ったって反感を買ってしまった…もうその頃には笑いが止まらなくなった



「ピッチャー交代!降谷 暁 マウンドに上がれ!」



点差が21になった時、投手交代…その人は1年生だと言うのに堂々としていて…でも覇気のない子…



「……わーあんな速い球初めて見た」

降谷暁は1球、投げただけで終了…1軍合格
何キロ出てるかわかんないけどあの速い球を取れるキャッチャーが1年にはいないから交代されていた…実力も十分
「あんな速い球投げる子が同学年にいるなんて…燃えるね、栄純」

   きっと栄純のライバルになる子だね

「…少し打ってみたいかも…」


栄純が投げるのは無いかもと半分諦めてた時
栄純とピンク髪の男の子2人で1点を返した…2人でって言うよりあのピンク髪の子のお陰でしょ
本当はこんな点数差なので試合終了なのだが栄純の粘り強さが勝ったのか試合続行

あんなに弱気な1年達が栄純のせいでやる気になってる…

よかった…やっていけそうだね栄純


「…………栄純っ‼︎‼︎‼︎」


栄純がマウンドに立った時…私も立って…遠くにいる栄純に大声で呼びかけた…ようやく投手として力を発揮できる時…私は周りの人達なんか気にならず栄純に伝えたい

みんなに栄純の力、見せてこい

私の声に気づいた栄純はいつもの笑顔で左手を突き上げた




         △▼△▼△▼




試合はもちろん負け、1-29
栄純の球に翻弄されて点数は伸びなかったけど、体格がでかい人にホームラン打たれた…まぁ、試合の後少しだけ栄純と会えた時、打たれたのに嬉しそーに笑ってたから大丈夫でしょ

「あ、そこの彼女!」
帰ろうと思ったら時代遅れのナンパにあった…野球部の人だが帽子を斜めに被ったメガネのチャラそうな人…
「…何か?」
「え、予想以上に可愛い…こりゃぁ沢村殺されるな〜」
話かけてきたくせに意味分からないこと言ってるメガネは何が面白いのか、けらけら笑っている
「わざわざ休日に沢村見にきたってことは彼女?」
「……違うけど」

この手の話は聞き飽きた…幼馴染の私たちを周りはどうしても恋仲にしたいらしい、よく揶揄われた
「本当に〜噂になってるぜ…学年一位の秀才が色々と問題児の男との謎のカップルって」
「馬鹿馬鹿しい噂ね…」

「じゃあ…千隼ちゃんならどんな球もホームラン打てるってホント?」

「…」
この男本当に聞きたかった事はソレか…きっと栄純がまた自分の自慢のように私の話をしたんだろう…

それより、へらへらして馴れ馴れしいから最初から敬語なしで話してたけど…この人…

「馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ

みゆき かずや」

まったくもって不愉快なので笑顔でキツく突き放せば大抵の初対面は私に返事を返せない…その隙にさっさと帰る、数分後みゆきの笑い声が離れた私にも聞こえた

「…さっすが幼馴染!

  沢村といいサイコーにおもしれーじゃん‼︎




 ホームラン、否定しないんだな…千隼ちゃん」

…数日後私は後悔する…

      あんな返事しなければ…

  この厄介な男に目をつけられなかったのに



     「…いい事思いついちゃった…」