▽普通って言ってるのに






あの、1年対2・3年の試合が終わり数日

栄純は2軍に上がった…そして投手として先輩の捕手が色々と教えてくれるようになったんだけど…降谷は御幸がついて栄純にはクリスって人で…この人が全く何考えてるのか分からんし意味ない練習させてくるし声がすごく小さいと毎日のように愚痴が絶えない

それが急に無くなり…クリス先輩がどれだけすごい人か力説された

そして事件は起きたー…

それはもう、満開の笑顔で登校してきた私を出迎えた栄純に…


「喜べ千隼!クリス先輩が明日グラウンドに来るようお呼びがかかったぞ‼︎」

喜べない…



ーNo sideー

千隼にお呼びがかかるきっかけとなったのは…1年対2・3年の試合前ー

「お前の球なんか千隼が打てば絶対ホームランだからな‼︎」

問題児として何かと話題の沢村は同学年のエース候補降谷の球を見るたび苦し紛れに千隼の存在を出す…千隼の存在を知らない野球部は沢村をやっぱり頭のおかしい奴と結論付ける

「なーその毎回言ってる千隼って何?」
いい加減何回も言うので御幸が気になって沢村に聞けば、よくぞ聞いてくれたと自信満々に答えた
「千隼と俺は一心同体!2人いれば最強‼︎降谷の球なんか千隼の腕にかかればポーンですよ‼︎」
「…」
なに一つ理解出来ない栄純の答え、だが一緒に聞いていた降谷のご機嫌をナナメにする効果はあった

「そこまで言うなら連れて来なよ、その人」
「ゔっ…それは…」

「そーだなーそんなに自慢するなら見てみたいよなー場外ホームラン!」

連れてこいと降谷が言い出したら慌て出す栄純に御幸も乗っかる、栄純の話を見栄を張るためのウソだと思ったから

「…これないっすよ…千隼」
「あー地元に残ったの?」
全国レベルの青道には県外から人が集まる、その為の寮生活を敷いられるため、ここに連れて来れないって事は地元いると御幸は思ったが…

「いや、青道にいますけど…」
「はぁ?なら連れて来れんじゃん」

「…だって女子は野球部入れないじゃないっすか‼︎」


2人は止まった…完全に作り話だと思ったらまさかの女だと言い出す…確かに女性の野球は少しずつ増えてきているが降谷の球を打てるとは到底思えない…
「本当に打てるの?」
「ウソじゃねーよ!中学時俺らチームの4番で毎回ホームラン打ってくれる俺らの得点王だからな‼︎」

まったく信じてない降谷に千隼の凄さを話す沢村に御幸はふと…春休みの事を思い出した…野球部副部長の高島礼が言っていた、スカウトに行った試合で見たこともないくらい綺麗なホームランを打つ子がいた…と

「(確か礼ちゃんそん時スカウト出来ない事情があったって言ってたよな…もしかして…)」

御幸の考えは当たっていて…高島礼がスカウトしたかった人物は千隼の事だ…妙な確信を得た御幸はもっと興味が湧いた

そこに1年対2・3年の試合で沢村を応援する女の子がいた…試合が終わったあと沢村は同級生に問い詰められていた…御幸はその子が沢村が言ってた千隼だと確かめてもっと興味がわいてあるいい事を思いつく

その日から御幸の密かな計画が実行された…あいにく部活と忙しいので根回しに時間がかかった…礼に相談したり、クリスに興味持たせたり…

その間にクリスの事で御幸が沢村に怒ってしまい…なんとなく合わない日が続いたけど…

6月の1週目青道vs黒士館との試合の後グラウンドが使える許可が出たのでクリスが沢村に千隼を連れてくるよう頼んだ…クリスに反発してた栄純は今じゃ忠犬になり、クリスの言うことはすぐきいた

「(一軍を決めてからじゃないと呼ばないって礼ちゃんに言われたから時間かかっちまったな…

 でもようやく拝めるのか…

     天才サマのバッティングを…

              たのしみ〜‼︎)」


              ーNo side endー


栄純の話では一軍に上がるための大事な試合の後に呼び出された私は栄純のお願いもあり朝から青道にきていた
「(毎週他校と練習試合出来るなんて…やっぱり学校の規模が違う…黒士館がどんだけ強いか知らないけど)」

この2ヶ月栄純が頑張ってるのは知ってるし野球の知識を身に付けようと勉強もしてるらしい…
「(…私も野球の知識ないんだよなー作戦とか考えた事なかったから…)」
栄純の球ぐにゃぐにゃ曲がってそれが面白くて放置してた、球種もよく分かんないし

初の公式戦を見るからかドキドキしながら待ってたら栄純の立ち上がりがすこぶる悪い…暴投のせいでフォアボールにデッドボールまで…

けど…

「(栄純の球…すごい…)」

たった2週間でこんなに変わるんだ…相手チームはバカにしてるけどアレが中に入れば打てる人少ないと思う…キャッチャーがダメだけど

荒れに荒れた投手の栄純に観戦者達から“かわれ”のコールが…ノーアウト満塁じゃ言われても仕方ないけど

「選手交代をお願いします!

 キャッチャー小野に代わり 滝川‼︎」

選手交代なら確実に投手を変えると思っていたら捕手を代えたのでグラウンドがざわついた

「…きっとあの人が“クリス先輩”なんだね、栄純」

交代された捕手の人が来たら栄純すっごく嬉しそう

栄純が言った通りすごい捕手でノーアウト満塁の状態の中、無失点でピンチを切り抜けた






「見違えたよ栄純、最後の球が特に」
「そうだろう、なんせクリス先輩に褒められた一球だからな!」
よく、分からないが栄純とクリス先輩は3回までで交代になった…試合には8-5で勝ちで終わり

若干逃げようと思ったけどわざわざ迎えにきた栄純に捕まりグラウンドに連行されてる

「おーやっと来た来た」
整備にされたグラウンドにはもう部員はほとんどいなくて…ゆいつ残ってたのはクリス先輩とこの前のナンパメガネ男御幸と…豪速球を投げる降谷

「…はぁ…だから栄純、私の事話さないでって言ったのに…」
「俺が千隼の自慢して何がおかしい‼︎」
悪びれることなく威張る栄純にため息…それでこっちがどれだけ迷惑かけられてるか…
「わざわざ呼び出して悪いね千隼ちゃん、沢村の話だと相当凄いんだって?」
「…普通よ、普通……けど、ここまで呼んどいて何もせずに帰してはくれないんでしょ?」
「ご名答!こっちはピチピチの話題の新人だから許して!」
空気みたいに軽いみゆきが笑顔で降谷の相手をしろと言う…降谷本人はボケーっとしてて理解してなさそうだけど
「…わかった一回、一打席だけね…栄純ジャージ貸して」
こんな事なら制服で来なきゃ良かったけど準備万端な栄純に案内させられ素早く着替えが出来た…靴は仕方ないか…普通の運動靴だからそこだけ気をつければ

「…本当にこの子が?」
「みたいですよ…沢村が言うには…本人も一回で終わるって確信してるし」

「…」

久しぶりのグローブにバットを持つ感覚…中学の試合後練習の一つもしてないけど降谷の球ぐらいならなんとかなると思う…打てないふりは出来るけど後々栄純がうるさくなるのは勘弁だし

「…本当に一打席でいいの〜?俺たちは三打席ぐらいは考えてたけど」
「確かに一試合で三回くらいは相手にするけど連続で同じ人相手に投げる事なんてあり得ないでしょ」
「…ふーん…天才サマは言うことが違うな〜」

「…」

軽く柔軟して集中力を高める…

金属のバットを軽く上に投げる…夕日の空に金属が輝く

宙に浮いたバットをいつもの様に掴んでバッターボックスに入り自然に構える、審判はクリス先輩、捕手は御幸…投手は事情も知らない降谷…
「(…何言ったかしんないけど、やる気マンマンじゃん…)」

たぶん、この御幸って人…相当腕のいい人
クリス先輩もそうだけど御幸が今青道の正捕手だろう

「かっとばせー千隼‼︎そいつの豪速球なんか打ってしまえー‼︎」
栄純の掛け声が合図になった…

2球までじっくり降谷の球を見る、みゆきも予想してたのか2球ともストライク

そこから2、3球、外だったり中だったりの球をすべてファールゾーンに打つ

「(…うん、次は打てるな)」

こういう妙な確信があるときはバットじゃ届かないボールとか暴投じゃないかぎりどんな球でも打てる

あんな速い球もスローでよく見える


     この瞬間はとても気持ちいい


「……マジかよ…」

降谷の投げた球は綺麗に飛んで高いフェンスに当たった

「うぉぉぉっー‼︎さすが俺の半身‼︎得点王‼︎」
「やめてよ恥ずかしい」
最初打った時は体が鈍ってるかなって思ったけどなんとか打ててよかった栄純が喜んでるのも嬉しい…私も少し楽しかったし…

「やられたな…」
「はい、1番良いコースを打たれたら文句は言えないですね」
「……」
なんだか降谷からものすごく強い目線が送られてくる…みゆきとクリス先輩からもなんか興味津々の目で見られてるような…

「いやーまさか本当にホームラン打つとは…千隼ちゃん何者?」

「普通でただの女子高生だよ」


…今回は栄純のために打っただけ…降谷の球は打ってみたいと思ったけど…


「…じゃあさ野球部に入ってみない?」


     私、野球部に入る気ないんだけど…