▽怖がられるのには慣れてる





「…見てるだけで死にそう…」

合宿の初日、日が落ちても練習は続く…走るだけ走らされたら次はベースを永遠とまた走らされる…2面あるグラウンドを20人に絞って練習する分テンポが早く休む暇なし…そして最後にグラウンド20周…


「これで明日から普通に学校があるのか…」



野球部の練習量にドン引きしながら私は特にやることが無かったからマネージャーの手伝い(ほぼ荷物運び)
「じゃあコレ最後持っていきますね」
「あっ…うん、ありがとう…」
一日使って汚れたボールを1つ1つ綺麗にして(夏川先輩が)ボールがいっぱいに入った籠を私が倉庫に運んでく

「1つの籠だけでも重いのに…3つも持ってる…」
「やっぱりすごい子ね…」



        △▼△▼△▼


翌朝、6時には練習が始まる

私は練習が始まる前にマネージャーの手伝いをしてトスバッティングが始まればクリス先輩から選手の事を聞きながら観察、ノックも同様…
「あの…説明されてもよく分からないので一回練習に参加してもいいですか?自分でしないと全くイメージ出来なくて」
「…わかった俺が相手しよう…」
したことない練習を見るだけで指導するなんて無理だと思い、練習なんてしたくないけど少しだけ参加する

「おいしょー‼︎」
バッティングのセンスゼロの栄純の声がうるさい…でも栄純のおかげで力みすぎはよくないと分かる
「栄純へたっぴー!」
「うるさーい‼︎」


合宿中なので朝ご飯も寮で食べて良し言われありがたくいただく…部員はご飯山盛り3杯だけど私は普通サイズ
「千隼…頼む…俺の分食べてくれ〜」
「イ・ヤ!私サポーターだからそんなに食べなくていいの第一みんなの前でそんなにわかりやすくて頼んだって意味ないでしょ!見張りの金丸君だっているし…ね」
「おっ…おう…」
この様に最初の印象のせいで同年代の野球部からは何故か恐れられてる…仕方ないか

「…」
「え、何…?」
栄純の隣に座ってる降谷からスッ…とどんぶりが渡される…これは食べてって意思表示なのか?
「だから無理だって」
「……」
キツかろうが吐きそうになろうが私は食べてやらない、私大食いじゃないし…顔真っ青な小湊くんには可哀想だと思うけど…


朝食を食べたらすぐに学校、クラスが違う栄純とは別れ普通に授業を受ける何人か野球部の子がいたけど避けられてる、コレも仕方ない
「(栄純今頃寝てるかな〜?)」


         △▼△▼△▼



4時、午後練習開始ー

部員達が準備中にマネージャーの手伝いをしてから私はノックの練習をさせられていた…これからサポーターとして働くためにはノックを打つ側もするらしく、ノックしててイヤな打球の数々を知らないといけないらしい…わざわざ高島さんからスパイクまで用意してくれたのだから断れない…

「…上手いな」
「ね、あれで初めてだってよナマイキ」

いやいやながら始まった練習だが…ノックって予想以上に楽しい、きっと私の練習姿みんなに見られてるだろうけど気になんないくらいゲーム感覚で楽しい

「どうだった」
「トスバッティングより断然楽しいですね!速い球を取り続けるの、なんか達成感ありました」
「ノックを楽しいって言うなんて本当ナマイキ」
ひと通りノックを経験して感想をクリス先輩に話したつもりだけど同級生の小湊くんのお兄さんに聞かれて辛口な事を言われた

「さっきのノック、手抜かれてたの気づいてたでしょ…なのに速い球って言うの?」
「…あー…悪気があったとは思わなかったので…」
ノックを打つのは大体部員だ…彼らが女の私にノックを打てと言われて他の部員と同様のノックなど出来ない、打球の速度やペースが遅めだったりしたけど文句は言えない
「後どんくらい速く出来る?」
「…分かりません…やったことないし中学の時も内野はほとんどしたことないので…」
「じゃあちょっと試させてよ」

「え…」

同級生の小湊くんは大人しそうで優しそうな子だけど(話したことないけど)兄はなんか違う…え、なんか怖い…

言われるがままにまたノックをまたさせられた…先ほどより打球の速度も上がりペースも速いしギリギリのコースばかり打ってくる
「(さっきより楽しい)」
でもこれくらいなら集中を切らさなければ球は全部取れる、身体がなれればもう少し余裕があるはず

「ムカつくほどいい動きするね…ラストのアレどうやったの?」
「お疲れ様です…最後のは…あぁ、アレは…グッと身体を使って…」
「分かりにくい、もう少し具体的に」
「…」
ノックが終わった後、笑顔なのに怖いお兄さんからアレコレ質問される…感覚的や話は説明しづらいから苦手だけど怖いので素直に答える



         △▼△▼△▼



「…だと思うんですけど…」
「ふーん…なるほどね…分かった試してみるよ」
お兄さんはとても細かく質問してきた、身体の隅々の動かし方や目線のことまで聞かれた…またナマイキだと言われるかと思ったけど違った

「…怒ってないんですか…?」
「怒る?…まさか、年下が自分よりいいプレーしたからっていちいち怒ってたらキリないよ…自分より上手いヤツなんていくらでもいるからね…」
「…」

「そんなくだらないことするよりもそいつから得られるもの全てもらってそいつより上手くなる方が時間を無駄にしなくて済むよね」

「…はぁ…」
ナマイキやらムカつくなど言ってたのに怒ってないらしい…てっきり過去みたいに怖がられたり嫉妬されたり…結局上手くいかないと思ってたのに

「ありがとうございました…小湊先輩…」
「…変なヤツ」

変な先輩に変だと言われたけど何故かお礼を言いたくなった…


 悪口を言われたのに嫌な気分にならないのは

        初めてだった





「双葉!少しいいか‼︎」

次はキャプテンの結城先輩に呼ばれた…自分のスイングを見て欲しいと頼まれた…だから私は自分が見て気づいたことを先輩に伝えた…

   球は大きく高く遠くへ飛んでいった…

「助かった双葉、この感覚を忘れないようする」
「いえ…」
お兄さんや結城先輩が私に教えを問うたからかその日から少しずつ私に話かけてくる人が増えていった…

高島さんや監督達から勧誘されても絶対上手くいかないと言った…キャプテンの宣言を聞いてもその想いは変わらなかった…女に教えられるのを嫌う奴が絶対いる…って予想してたのに…


野球部入ってもどうせ暇になって合宿中栄純の相手ばっかりだと思ってたけど…栄純は投手の練習で私は教えるのは無理だし、何故かよく相談されることが増えていって…

  想像以上に忙しく合宿期間が過ぎていった




ーNo sideー




合宿初日からインパクトのある試合を終わらせて野球部部員に衝撃を与えた侵入部員双葉 千隼

彼女の話題は部員達の中で尽きることがなく、しかも昼ご飯の時沢村 栄純と仲良く異次元の話をしていて益々好奇心やら恐怖心…色々な感情を各々育てていった

2・3年は特に驚く人が多かったが1年は驚きは少なかった、入学早々同学年に化け物みたいにすごいヤツがいると噂があった…漫画みたいに成績優秀で運動神経も良く、何をやっても一位の奴がいると…その化け物みたいなヤツが問題児の沢村と仲が良いという話はみんな当たり前に知っていた


「…どんな感じだ?」
千隼の力は確実に野球部の力になると片岡監督は確信していた、きっと千隼の実力なら他の部活だって欲しがるほどのモノでサポーターとして野球部に入部させるなんて勿体無いと言われていいほどだ…だがこの幸運が上手くいくかは賭けでもあった

人間、自分より格上の相手を素直に受け入れるためには障害があっては中々難しい…“年下”で“女性”というのはかなりの障害だと片岡監督もわかっていた

「…野球の知識は本人が言っていた通りです、野球の練習すらしたことが無いと言っていましたから」
合宿2日目の夜、千隼の面倒を見るよう頼んでいたクリスから報告をきく…1日目は練習せずに模擬戦でホームランを量産していた千隼の実力を部員に見せるため、そして部活に慣れてもらう様観察させた2日目も本当は観察だけでそれ以降も少しずつ部活に慣れてサポーターとしての知識をつけてから部員と関わらせようとしたが予定が変わった
「双葉の観察眼は恐ろしいモノです、私がアドバイスしなくても見た者の改善点をいくつも発見して双葉は人に教えるのが苦手だと言いますが私はサポーター向きだと思います」
「…」
「問題はどれだけの部員が彼女を受け入れるか…ですね」
クリスの報告を聞いて、一緒にいた高島がメガネを怪しく光らせながら冷静に言う

「…今日小湊と結城らが率先して双葉に教えを問うたことで何人か話しかけやすくなりましたが…」

「…時間を使って関係を重ねていくしかない…

強くなる為に双葉の力はどうしても必要だ…だがそれでチームワークに嫌な影響を与えたくはない…双葉自身もそうだ、我が野球部に入って後悔する様なことはあってはならない」


「…はい」


片岡監督の強い想いにクリスも感情を揺さぶられる

影響力が強い双葉の介入が青道野球部にとって最高なモノになって欲しいとクリスも願い心を正した…




              ーNo side endー




△▼△▼補足△▼△▼
野球やスポーツの知識がないので、野球知識の内容は書きません
マネではなくサポーターとして入部する話ですがご勘弁下さい
そのせいで読みにくくなったりしたらすみません