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06 >> 歪曲した奇跡に委ねる  [2/2]

声が聞こえる。かなしく、泣いているような、ひどくゆがんだ声。

「あれが、時空のゆがみの音だよ」

つんざくような声が止んで、すぐに聞こえた男の声はどこかで聞いたことがあった。つい先ほど聞こえたささやきと似ている。
いや、もっと前にも――あぁ、そんな思考はもう必要ないのだろう。私は、色歌淋は死んだのだ。

死ぬときには過去の出来事が脳裏を駆け巡ると聞く。きっとその類だ。だってあんなにも痛んだ身体からすっかり痛みが消えているのだから。
ゆっくりと目を開けてみる。白い天井。つまり、肢体は仰向けになっているのだろう。
視界は良好だが、体はいやに重たい。
玲魅は、大丈夫だろうか。勝手に死んでしまったことを、怒っていたりしないだろうか。

「……玲魅」

瞼を閉じて、愛しい名前を呼ぶ。思っていたより、弱々しい声が出て情けない気持ちになった。

「歌淋……!?」

優しく大好きな声が、今まさしく想っていた人の声がする。どたばたと足音と振動が伝わってきて、再び名を呼ばれた。死後の世界では生前の願いを叶えてくれるものなのだろうか。許されるなら、ずっと、玲魅の傍にいたかった。そんな欲深い願いを。
ぽたぽたと頬に冷たいものが降ってくる。雨? それとも玲魅が泣いているのか?
ゆっくりともう一度瞼を持ち上げてみると、本当に玲魅が泣いていた。

驚いて目を瞠る歌淋を、玲魅はぐずぐずと泣いたまま覆いかぶさるようにして抱きしめた。

「よかった……生きててくれて、よかった……」

泣きじゃくりながら何度も何度もそうこぼす。玲魅の温もりがダイレクトに伝わってきて、ようやく歌淋は理解した。
これは死後なんかじゃない、ちゃんと生きているのだ、と。

「目が覚めたかい?」

先の声と同じ男の声がする。玲魅に支えられながら上体を起こすと、真っ白な服から紅の瞳を覗かせた青年らしき人がいた。BASARAのキャラクターではなさそうだが、二次元にいそうな男だ。

「すっかり大きくなったね」

微笑むその姿は、美形と言っても過言ではないくらい美しい。だが歌淋 はその美しさよりも、その言葉に違和感を覚えた。

「それはどういう……そもそも貴様は何者なん……ッ!」
「あぁ、動かない方がいい。怪我は直せても流した血液は元には戻らないからね」

問い質すため立ち上がろうとした歌淋 は、がつんと頭を殴られたかのような頭痛と眩暈に襲われ、再び玲魅の腕の中に収まった。

「オレは神サマだよ、君の命を救った時空の神、鈴凛さ」

言っていることは大分痛々しいが、玲魅の安堵した表情と自分の状況からして、あながち嘘でもなさそうだと歌淋は理解した。
鈴凛は立ち竦む戦国の猛者たちをぐるりと見回して、さて、と声をかけた。

「不条理だと思うかもしれないけど、この平成の世で君たち戦国の人間が暮らすには彼女たちの助けが必要だ。誤って殺したら、誰一人として二度と帰れなくなるから気を付けて」

やんわりとした脅しを、鼻で笑ったのは忍びだった。それをじろりと見咎めた神サマは、哀れむようにため息をついた。

「俺の言うことが信じられないなら殺してみればいい。二度と主の顔を見たくないならね」

強い口調で釘を刺した神をどう捉えたのか、忍びは難しい顔をして黙りこんだ。
ヒヤリとした空気が部屋中を支配する。その空気を遮るように、玲魅がおずおずと手を挙げた。

「それはつまり、私たちに彼らの面倒を見ろということですか、?」
「もとよりそのつもりだったんだろう?」

鈴凛の華麗な返しに、玲魅はぴくりと眉を動かして、言葉を詰まらせた。的確に言い当てた鈴凛の底知れない怖さを目の当たりにして、怯えたと言ってもいいだろう。
そりゃあ戦国の猛者たちも、強く言い返しにくい。

「ま、とにかく太平の世を楽しませてやってくれ。何かわかったら教えるから」

じゃあね、バイバイと手を振った鈴凛は無数の光に包まれて刹那のうちに消えていった。


歪曲した奇跡に委ねる

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2017/06/11


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