05 >> 私は元気です。 [4/4]
なんて偽善的。
そのために彼女を縛り付けていたなんて。
本当に申し訳ない。
私はきっと彼女の数年間を無駄にさせてしまったに違いない。
償える方法なんて、きっとどこを探しても見つからない。
あるとすれば、それは私が彼女の仮の一番を手放したのちに彼女の前に一切姿を見せないことだ。
肩が震える。嗚咽が漏れる。鼻水が出てくる。
私は泣いているのだ。
ああ、やめろ。泣くんじゃない。
一層自己中心的になってしまう。止まれ。止まれ…!
「うっ…ぐず…っう、」
「おい、よしが腹踊りやるってよ!」
「うおお、やれややれや!」
「一番ん!芳太郎ぅお!恒例のやつやりまーーーっすっ!」
「よぉっ!待ってました!」
「!」
まわりのどんちゃんとした雰囲気が身の回りに返ってくる。
こんなところで泣いて、雰囲気を壊してしまう…!早く、早く出て行かなければ…!
幸い元親さんは私とは逆の方に居るし、他の方もみんなよしたろうさんと思われる人の方を見ている。
今なら抜けてもばれない。
涙なんて流したのはいつぶりか分からないから止め方も分からない。いや、正確には分かるのだが、なかなか実践できない。
「…っ」
息を止めてひっそりと会場を後にした。途端に冷気が入って来る。いつの間にこんなに時間がたったのだろう。もう空気が冷たくなっているなんて。
襖を開けた外はもう太陽が海に逃げ込んだ後だった。でもまだ月はそれを見つけていない。空はまだ太陽の余韻を残したままだ。
開けた時と同じようにひっそりと襖を閉め、縁側に腰掛けて柱に寄りかかり涙を止めようとする。
人が歩く気配はない。どうやらほぼ全員が宴会場の中に居るようだ。そんな事をしていて奇襲されたらどうするのかと思う。
さて。涙を止めなくては。
「うっ……く、ぐぅっ…はぁ、う、ん…!」
漏れだしてくる嗚咽を喉元で止めるように、そうなってくれるように息を押し殺す。競り上がってくる何かを殺すことは難しい。
というか、苦しい。
次に目を瞑る。今度は込み上げてくる涙を止めようとする。あぁ。着物を着せてもらっただけで良かった。
御化粧なんてしてもらってたら、きっと今私の顔は見れないくらい酷くなっているはず。元から見目を気にできるほど顔もよくないが。
「んん…!うぅ…っ、ふぅ…っ」
徐々に衝動は緩ぎ、そして治まっていった。
ほう、と安心するとともに罪悪感がたまっていく。泣いてしまった。私に泣く権利なんてないと言うのに。
私は亜真に対する罪を私の中で罪悪に変換し、ずっと背負って行かなければいけないのに。
泣くという行為は嫌いだ。その行為ひとつで人間が他人を見る目は変化していく。
私があの時もし泣けば、きっとあの母親父親と今も一緒に暮らしていたに違いない。そして、亜真にも出会わなかっただろう。
…あの時泣いていれば、それは亜真のためになったのかもしれない。
しかし申し訳ないが、あの姉に対する思いは泣くほどではなかった。亜真の方がよほど大事だ。
自分勝手な行動で数年間を傷を残したままにさせてしまったことを理解し、泣くほどに。
泣く人間が嫌いだ。だってそれは、同情を買おうとしているに過ぎない。泣くなら日陰で泣け。汚い面をひとさまに見せるな。
いくつかある中の私の持論である。
「はぁ…はぁっ」
気管支が弱い私に嗚咽を我慢させると言うのは些かいじめに近かったようだ。呼吸が思うようにできない。
それでも走ったわけじゃないから大量の酸素は必要としておらず、ゆっくり少量ずつの酸を取り込んでいけば苦しくはなくなった。
だが喉の奥が傷付いたようなこの感覚では暫くまともに呼吸は出来ない。
涙を止まらせたからと言って宴会場に戻るのは無理なようだ。酒の匂いが充満しているあの部屋に申し訳ないが戻る気にもなれなかった。
月が出るにはまだまだ時間が掛かるだろう。宴が酣になり始めてから戻っても特に咎めを受けるということはあるまい。
問われれば酒が苦手だと言えば良い。何より嘘じゃあない。まあ、苦手なのはそれを呑む行為で、匂いはどうってことないが。
「…亜真は、きっと大丈夫だ。今、治すべきなんだ。きっと……亜真の傷を。」
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失礼します、解説timeです。
亜真ちゃんが言ってる“プラスチックの金メダル”。多分訳わかんなかったと思います。
つまりまあ亜真ちゃん的には亜真ちゃんの仮の一番って意味です。
あと、亜真ちゃんが“お母さん”て言ってるときと“母親”って言ってるときがありますが、それらは別人です。
以上です!up遅れてごめん吟音!
赤緋でした。