01 >> 平から非へ。 [5/6]
同じだ。
「起きて下さい、鵺宵様」
いつも私を起こしに来るメイド。
「…あぁ、言われなくても起きてる」
「そうですか」
ベッドの上に座り込んでメイドの方を見ると、いつもと同じ瞳。
事務的に動くコイツ等の瞳には、仕事しか映っていない。
「制服をお持ち致しました」
「其処に置いておけ」
「髪を結いましょうか」
「いい。もう下がれ」
はい、と覇気のない返事を置いて、メイドは私の視界から去って行った。
その直後、メイドが忘れて行ったボールペンを力任せに折った。
赤いインクが血のように指を伝う。
「…もううんざりだな」
ボールペンを捨てると、用意された制服を素早く着、鬱陶しい髪を結わえる。
いっそツインテールにしてやろうか、と思ったが、面倒でやめた。
「…御馳走様でした」
朝食を素早く食べ終え、未だ食べ続ける父親を見たが、いつも通り頷いただけ。
今朝も母親の姿を見ていない。
メイドに聞けば、兄の大学に訪問しているらしい。泊まり掛けで。
「また兄か…」
メイドに用意された靴を履き、視界に入った傘の骨を一本、根元から根刮ぎ取り浚った。
「…っ」
メイド達が息を呑んでいるのが嫌でも分かる。
メイド達は私では無く、折れた傘の方を見ていた。
「じゃあ…行ってくる」
きっと私は、この折れた傘より醜いのだろうな。
「あ、おはよう鵺宵」
「はよ」
"おはよう"なんて亜真以外の人と言い合った事があるだろうか。
「ー…であるからしてー、この文には…」
この話し方、何とかならないのか。
集中出来ない。
どうせコイツの目にも、"仕事"しか映っていないのだ。
「亜真、ご飯」
「あっうん。今日は晴れてるから屋上で!」
亜真は屋上好きだな。
私は屋上に居ると傷が疼くが、それを踏まえて屋上を選んでいるのだろうか。
「あのぽっちゃりが良いんだろうが!それがザビーの魅力だ!!」
「松永さんの方がまだ魅力的じゃない!」
「あれが魅力的!?断じて認めない!!」
「認めなよ!あんなうざいザビーより絶対良いって!」
亜真と居ると落ち着く。意見はこんなに違うのに。
幸せな時を割くチャイムが鳴った。
授業が始まる。
「じゃあ、宮田の続きを仲野」
「はい、」
面倒な学校が終わり、ホッと息を吐く。休み時間と帰り道が、一番私を安心させる。
家に居るより絶対。
「鵺宵、帰ろー」
「おう」
歩きながら、亜真とまた意見が食い違う。
「なんでザビーの良さがわからないんだ!?」
「松永さんのあのムカツク語りの方が好きだもん!」
「大体亜真は昔からどっかおかしいんだって!」
「それは鵺宵の方でしょ!?もう、時間も無いし後はメールで!」
「はあ…わかった、じゃあまた後でな」
「ん、一段落したらねー」
家に着いたが、まだ母親は居ない。
メイド達が迎えてくれたが、嬉しくない。
私は早々に部屋に上がると、亜真とメールを始めた。
[見ればわかるだろ!]
[ザビー見て素敵って思う人中々居ないよ!?]
[あのうざさが素敵なんだ!]
[それ素敵なの!?]
当たり前だろ。ザビーを舐めるな。
何ていうメールを打っている内に、不意に睡魔が来た。
「…あ…れ…いつもなら…この時間はまだ…余裕で起きて…るの…に…」
疲れたのかな、等と考えていると、
私の意識は、携帯を握り締めたまま、すぅっと闇の中に落ちていった。