「ひより?」
はっと気付くと、慶次さんは心配そうに私を見ていた。どうやら私は、昔の事を思い出して惚けていたようだ。
「あ、ごめんなさい」
「いきなり黙っちゃうから吃驚したよ」
慶次さんは笑っている。私も笑顔になった。
「慶次さん、そろそろ漢方薬、飲みますか」
私は風邪に効くと言う漢方を慶次さんに見せた。
すると慶次さんは悪戯でも思い付いたような、子供の顔をした。
「な、ひより」
「何ですか?」
次の瞬間、私は開いた口が塞がらなくなった。
「口付けで飲ませてよ?」
「……」
真剣な顔をされて、驚きで声も出なかった。
本気だ、と思い、私も決心した。
「…今回だけですよ?」
私は溜め息混じりに言って、薬を口に含んだ。苦味が口の中に広がる。
そのまま慶次さんに口付けた。
「ん…ふ…」
薬を慶次さんに移し、離れた。
「ん…ありがと」
「…いえ」
さすがに躊躇したし、かなり意識もしたのだが、私はあくまで平然を装った。
慶次さんは今日も、笑っていた。
翌朝。置き手紙の代わりに、慶次さんの姿が消えていた。
流石に布団は別々だが、今でも同じ部屋で寝ている。
慶次さんの布団の上にある手紙には、"また出掛けてくる。しっかりな。"とだけ書かれていた。
何処へ、何時帰る、なんて書いてない。何処へ、等と書くと、私が追いかけて行くとでも思っているのだろう。
勿論そのつもりであるが。
「…バカ慶次…」
こんなにも好きなのに。
あなたが行ってしまうその前に、どうか私の声を聞いて
(せめて貴方に)(行ってらっしゃいと言わせて)
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もともとデフォルメ名は恋鴉(れあ)だったのですが、その由来をしっかり考えてました。
"恋のカラス"で"恋鴉"
由来は、"あ"は五十音の始めなので、これから人生を始めからやり直す、って意味を込めて。その字"鴉"は賢い鳥・カラス。"恋"は慶次にとって思い入れの強い物。だから賢くて、恋にも臆せず羽ばたいて行けるようにと思いを込めて。