その前に
>> しりたくない、こんなにちじょう [5/6]
それからはずっと慶次さんの布団で寝た。
布団で寝ると言う事に慣れてない私は、慶次さんと一緒に寝たのだ。
朝、昼、夜。
家事を手伝い、剣の稽古をつけてもらい、私は、充実した毎日を過ごしていた。
私が前田家にお世話になり始めてから、一月程経ったある朝。
私はいつも通り慶次さんの布団で目覚めた。
いつもと違ったのは、隣に慶次さんが居なかった、と言う事。
「一緒に寝た筈なのに…」
そこで私は思い出した。初めて慶次さんの布団で寝た朝、慶次さんが隣に居なくて、寂しくて、必死に探し回った事を。
「また前みたいに朝餉中ですね」
私は、ふふっと笑って、何の疑いも無く、大部屋の襖を開けた。
「慶次さんっおはようございま…す…?」
そこには、笑いかけてくれる慶次さんは居なかった。利さんとまつさんが黙々と朝餉を食べてるだけである。
「あら、ひよりちゃん」
まつさんは私に気付いて、にっこりとぎこちない笑みを浮かべた。
「まつさ…ん…慶次…さん…は…?」
不意に怖くなって、私は泣きそうになりながら尋ねた。
「け…慶次は、少し買い出しに…っ」
「慶次は出かけたさ。いつものように」
私はそんな"いつも"なんて知らない。
「いつ…帰ってきますか…?」
「…解らん……すまない…」
利さんの返事を聞いた途端、私は、言い様の無い激しい吐き気に襲われた。
「げほっげほっ」
これでもか、と言う程激しく咳き込み、昨日の夕餉が喉まで戻ってきた。
「ひよりちゃん!?大丈夫!?」
まつさんは私を洗面台まで連れて行ってくれた。
私は涙目になって吐きながら思った。
慶次さん…何故っ…私に一言も声を掛けてくれなかったのっ!?