「元〜!」
ひよりは授業中に俺の肩を叩いて言った。見ただけでうざくなるような満面の笑みで。
「“元”って何だよ!元親だ!"元"だったら誰か分かんねーだろ!どこの芸能人!?」
「あれ、元くん、髪の毛薄くなってる?」
「黙れ!」
授業中とか関係無く、ひよりは常に俺にちょっかいを掛けてくる。便所も例外ではない。
お陰で"長曾我部と花木は付き合っている"と言う噂まで流れ始めた。
全くそんな事実はない。いや、そんな事実があれば嬉しいかもしれないが……有り得ない。
「はぁ……」
溜め息が零れる。体中の空気が全て溜め息となって零れてるんじゃないだろうかと、不安になる程だ。
「あれ、チョソカベさんどした?」
原因はお前だっつーの。
「何でもねーよ。つか何でカタコトなんだよ」
「え、私カタコトだった?」
あはははは、と笑うひよりに、呆れ過ぎて言葉も出ない。
元々ひよりとは腐れ縁だ。
小六で同じクラスになって、隣の席になった。そこで初めて会って、初めて喋った。
「ながかつわれぶ君」
「いや、長曾我部だ」
名前を間違えられた、その瞬間から、俺とひよりの腐れ縁は始まった。
「あ、ごめん。“曾て長い歴史のあった我の部活、嗚呼もう廃部になってしまったな”かと思って」
「何その長ったらしい上に意味分かんねぇ作文は!」
最初から変な奴だった。
中学に上がっても奴は同じクラスで、隣の席。本当に腐れ縁で、腐れ縁過ぎて意味が分からない程だ。まあ今の俺の言葉が意味分かんねーんだけどな。
「お父様ー」
「誰がお父様!?」
「名前に親って付いてるから父さんかと……あ、母さんがよかった?」
「おかしいだろ!」
本当にひよりは変な奴で、名前は間違えるし、ちょっかい掛けてくるから嫌いだった。
高校に入って、またまた同じ学校、同じクラス、隣の席。
「いい加減普通に名前で呼べよ」
「嫌だね、弥三郎」
「おいっ」
「あ、せんせー!元親が授業聞いてませーん」
「っ!?ひより、てめっ」
「ちょそかっ……長曾我部、ちゃんと授業聞け〜」
「黙れ先公!つか名前呼ぶ時に噛むな!」
ふと見ると、ひよりは悪戯っぽく笑っている。かっと頬が熱くなるのを感じて、俺は窓に目を向けた。
「嫌な奴……」
それでも君は、不意に名前を呼んでくれるから
(好きって気持ちが)(湧き上がってくるんだよっ)
→おまけ