自室、畳の上。ずっと俯き黙り込んだ彼に、私は手を伸ばした。そっと髪に触れる。然すれば味わう事もなく彼のか細い手に払われた。ばしん、と異様に響く音。さっと顔を上げた彼は、整った顔立ちをしているのが勿体無い程に眉間に皺を寄せていた。
「触わるな!」
静かに紡がれた声に、身体が動かなくなる。ヒステリックを起こす彼に、私はされるがままだ。近くにある物を手当たり次第に投げて寄越し、何を言っても煩い黙れ、と罵られる。何度も経験してきたから、すっかり分かり切っている事なのだが、それでも私は彼を止めてあげたかった。
刀の鞘が私の頭にぶつかる。鈍い音と共に激しい痛みが静かに駆け巡り、頭がふらふらとした。
「消えろよ、なあ。俺の前から消えてしまえ」
彼は憎しみの籠もった声で空気を震わせながら、鞘を払われた刀に手を掛けていた。刃は躊躇いなくこちらを向いている。そのまま私の元へ一直線へ駆けてきた。
そのまま殺してくれればいい。彼がこんな人になってしまったのは私の責任なのだから。
「うん、消えてあげるよ。だから」
彼の顔が目前に迫った。それでも私は笑顔で、彼に伝えるいつもの言葉を紡ぎ出す。
「薫は、幸せになってね」
びくん、と彼の肩が揺れた。心の蔵の手前まで突きつけられた刃に、恐れ戦かない自分はきっと人間じゃないのだろうかと思いながら、私は彼の髪に触れた。私よりも背が低い彼は、涙の出ない自分を悔しがるように喘ぎながら私をじっと見上げる。雪村家の証である刀がからんと音を立てて落ちた。
「ひより…っ…ごめん…ごめんな…」
泣きそうな声を上げて、でも一筋の光もなく、彼は私に顔を押し付けた。それは許しを乞う罪人のようで。私は小さく首を横に振った。
「いいのよ、薫。貴方は悪くない」
私は罪人、貴方は被害者。
ぎゅっと抱き締めてやれば、畳がミシミシと鳴いた。
突きつけられた刃
(それは私の罪の証)
2011/09/09
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薫が幼少の時、まだ南雲家に居る状態です。
年上の夢主がヒステリック気味な薫を包み込んでいるのが書きたかった。