君に名を呼ばれるだけで、
「官兵衛殿!」

「…何だ」

「あの、お願いがあるのです」



いきなりやって来て、その上頼み事とは。…などと思ったものの口には出さない。何せ相手は今の主、秀吉様の養子。年下の娘と言えど邪険には扱えぬ。それに何より…自身が好ましいと思っている相手だから尚更に。




「内容によるが…善処はしよう」

「本当ですか!」

「卿に嘘を吐く必要は無かろう」

「…それって何か嬉しいです」



ふにゃりと笑う彼女。毒気を抜かれるその笑顔は、豊臣夫妻と何処となく似ていた。生みの親より育ての親、とはこの事だろう。




「…それで、頼みとは?」

「呆れないで下さいよ?」

「ああ」

「……名前、呼んで下さい」

「………は?」



予想もしない類の願いに、如何反応すれば良いのか暫く彼女の顔を見つめてしまった。一体何を考えているのやら、天下の情勢より掴みにくい娘である。




「もう!呆れてますね!?」

「いや…そうでは無いが。何故そんな事を」

「私…官兵衛殿の声、好きなんです」

「私の声、が?」

「あのっ、勿論声だけじゃ無いですけどっ」




慌てたように付け足す彼女を眺めながら、私は内心驚いていた。声など褒められた事は今まで無い。悪い印象しか与えていないと思っていた。




「…紫苑殿、」

「え、あ…はい!」

「私の名前も呼んではくれぬか」

「…お安い御用です、」





官兵衛殿。
にっこり笑って呟かれた私の名は、ひどく優しい響きを持っていた。





君に名を呼ばれるだけで、
穏やかな心地良さに包まれるのだ









(全く官兵衛は!紫苑の告白を見事に無視しおって…男の風上にも置けんやっちゃ!)
(まぁまぁお前様。ここは見守ってあげよう?官兵衛も紫苑も良い子なんだから)
(…鈍感同士な気がするけどなぁ、オレは)






―――――――――

キャラソン聞いて、官兵衛殿の声たまらん!との思いを込めて。高塚さん(中の人)歌上手^^

しかし竹半は書けそうにないので、最後だけ友情出演(笑)


このSSから派生したシリーズ。鈍感同士で恋愛未満。後は周りの保護者たちとの日常的お話を、1話完結の形でちまちまやっていこうと思います^^


title thanks:泣き虫ヒーロー


2010/03/30
2010/06/10…一部改変
天倉
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慎ましき泡沫