のーたいとる

 ――××さんが死にました。
 そうですか、残念ですね。

 なんとも無機質な言葉は音になる前に溶けて消えていた。わざとらしいぐらい哀の感情を載せた声でぽつりと呟けば、電話口の相手はわかりやすく涙腺を崩壊させていた。今まで我慢していたのだろう。でもだからって僕の時に泣かなくたっていいじゃないか。それを慰める役目を押し付けられたって困る。僕との関係値を考えればこの連絡もきっと最後の方なのだろう。積み重なった感情が崩壊したとして、本当に、一体どうして僕の時なんだ。
 口の中でいくつもの言葉を転がしながら、自分の足元に視線を落とす。真っ黒な靴下は、落ち着きなく動いていた。無意識にズレる重心に、ベッドが軋む。このまま寝転んで寝てやってもいいんだぞ、なんて。流石にやらないけれど。
 連絡をしてきた相手は肝心の死んでしまった人間に対するお悔やみだとか、勝手に出ち上げた死人の気持ちだとかをつらつら並べているけれど、どれもこれも興味がなかった。

 だって今自分の気持ちを素直に吐き出したって相手には届かない。
 だって死人に口は無いのだから他人の気持ちなんてわかるわけがない。

 仕方がないじゃないか。だって今、僕が生きている人間で、死んだ人間とは全くの他人で、そういうことは、全て覆しようのない事実なのだから。
 ただし、この考えを共有できる人物はどこにもいないことを理解しているから、ただ僕は言葉は中途半端なところで呑み込んで無かったことにするしかない。冷たい、と言われたのも、正直、仕方のないことなんだろう。全くもって、理解はできないが。

 長々と話終えた相手はまだ連絡しなきゃいけないから、なんて一方的で自己中心的な考えから簡単に繋がりを途切れさせた。無機質な音だけが流れる画面を見れば三十分は超えていて、随分と勝手に話せるものなんだなあ、なんて関心さえする。

 ――初めの連絡は、誰のものだったか。
 ただのクラスメイトか。同じ部活の先輩だったか。それとも友人の親だったか。

 随分と昔の出来事を思い出せるほど人間の脳みそは優秀では無い。流石に誰がいなくて誰が残っているかは把握するようにしているが、順番までは覚えているわけがなかった。そして、今日報せの入った人も記憶の中に埋もれていく。淘汰されて、消えていく。
 だってほら人間は死にゆくものだから。仕方がない。仕方がないこと。そんなものに一々涙なんて流してられるものか。自然に逆らわずに生きている人間は正しいのだから。

 だから、ほら。
 自然から外れてしまった僕が涙を流せないのも、仕方がないだろ。