一 四月のスピカ

 街道沿いの大型書店を出た瞬間、ふわり、と、春の夜風が吹いた。やわらかで、どこか花の香りがするような、そんな風だ。本当に、この時期は夜の外出も心地よい。
 鼻歌交じりに空を仰ぐと、月とともにいくつもの星が輝いているのが見えた。北斗七星のひしゃくの先には、オレンジ色のアークトゥルス。その向こうで輝く、ひときわあかるい青白い星の名はスピカ。アークトゥルスは麦星、スピカには真珠星という別名もある。この二星を、夫婦星と人は呼ぶ。

「あれ?」

 春の大曲線を楽しみながら書店の駐車場の先にあるバス停に向かっていると、聞き慣れた低音が背後から響いた。振り返った先に立っていたのは、予想通り、我が国が誇る英雄だった。

「……オールマイト先生」
「ソルティも買い物に来たのかい? そんなにたくさんの本を抱えて」

 はい、と答えたわたしの手元をちらりと見やって、オールマイトがいたずらっぽく眉を上げた。

 ソルティというのは、もちろん本名ではない。ヒーロー名だ。本名は塩月美栗という。
 わたしはヒーローとしての名の通り、塩の結晶を生成する個性を持っている。出した塩にはかなりの強度があるので、大量に生成した岩塩に敵を閉じ込めたり、塩で作り出した剣で直接的に攻撃するのがわたしの戦闘スタイルだ……いや……だった。

 八年ほど前に、敵との戦闘で大怪我をしてしまったのだ。大手術と長きに渡るリハビリの末、日常生活を送るには支障ない程度には回復したが、ヒーローとして活動することはできなくなった。結局そのまま活動を停止し、大学時代に資格をとった司書として近隣の図書館で会計年度任用職員として働くこと数年。毎年更新されはするがこのままやっていくのは少々きつい、としみじみ思い始めた頃、現役時代の先輩から、「雄英の司書に空きが出た」という知らせをもらった。
 試験資格の一つに「司書とヒーローの資格を有し、かつ両方の実地経験のある者」という一項があったのも幸いし、わたしは無事に試験をパスした。
 同じ年に雄英教師として赴任してきたヒーローがひとりいる。それが目の前の男性……オールマイトだった。

「いやあ、さすがに司書の先生は、プライベートでもたくさん本を読んでいるんだなぁ」
「そうですね」

 自分の声が冷たく響いたことに気づいて即時に後悔したが、あとのまつりだ。それを証明するかのように、オールマイトが軽く目を見開く。けれどそれはほんの一瞬のこと。
 オールマイトはそれ以上の感情を表面には出さず、すぐに柔らかく微笑んでくれたけれど、おそらく不快な気分になったことだろう。

 わたしは言葉が足りない上に、言い方や表情に温かさがない――ないと言われる。自分ではそんなつもりはないのだが、人から冷たい印象を持たれがちだ。それが原因でいらぬ誤解を受けることもあるので、極力気をつけているつもりだったが、なかなかうまくはいかないものだ。

「あの……好きなんです。本が」

 背中に汗をかきつつも、失礼にならないよう会話をつなぐ。

「図書館も利用しているんですが、月に十冊くらいは買ってしまいますね」
「えーっ、そうなると家の中が蔵書であふれちゃわないかい? うちの寮、単身者の部屋はそんなに広くないし」
「そうなんですよ。読み終えた本を定期的に古書店に出してはいるんですが、手放せない本もあってなかなか難しくて……。部屋の中は本だらけです。……オールマイト先生も、本を買いにいらしたんですか?」
「うん、私はこれ」

 にっこり笑った彼が掲げた手の中には「続・すごいバカでも先生になれる」という、インパクトあるタイトルの本がある。

「前巻もよかったし、ネットでサンプルを読んだ限りでは、これも良さそうだったからさ」
「そうですか」

 その時ポチらずわざわざ店舗まで買いに来たのか、と思ったが、それはさすがに口には出さない。

「あ。いま、なんでネットで買わないんだろ、って思っただろ」
「……いえ……そんなことは……」

 口には出さずとも、表情に出てしまっていたらしい。どうしようかと思いあぐねていると、オールマイトがふわりと笑った。ひまわりの花が咲くみたいに。

「私は昔の人間だからさ、ネットでポチるのもいいけど、実店舗に出向いて直接買うのも好きなんだよね」

 爽やかに告げて、オールマイトがウインクをした。まるで古きアメリカ映画に出てくるヒーローのように。こんな前時代的な仕草をしても滑稽にならず、むしろスマートに見えるのは、このひとの持つ、スター性の成せる技なのだろうか。

「特に書店はさ、店舗に出向いたからこそ出会える作品もあるだろう? そのあたりは、君も同じ意見なんじゃないかと思うけど?」

 それは確かにその通りだった。だからこそ、わざわざここまで出向いたのだ。そのあたり、たしかにわたしも彼と同類だ。

「……そうですね。わたしも本屋さんが大好きです。一期一会の出会いがありますから」
「だろう?」

 オールマイトが軽く胸を張り、そして続ける。

「ところで君、ここまでどうやってきたの? 学校からはちょっと距離あるよね」
「バスで来ました」
「そうか。私は車で来たんだけど、どうせ帰る場所は同じだし、良かったら乗っていきなよ」

 朗らかに告げて、オールマイトが微笑んだ。
 これがよく知らない相手であれば、即座に断りを入れるところだ。けれど相手は同僚であり、我が国が誇る伝説のヒーロー。断ることすら失礼にあたる……かもしれない。
 そんなことをぐるぐると考えているわたしの上に、明るい調子の低音が頭の上から降ってくる。

「遠慮することはないさ、私たち同期だろ?」
「たしかに雄英に採用されたのは同じ年度ですけど……」

 入職したのは同じ年ではあるけれど、オールマイトとわたしが対等であるとは思えない。長年トップとしてヒーロー界を牽引してきたオールマイトと、怪我が原因で活動を停止したわたしとでは、大違いだ。

「それにさ、大量の本を持って歩くの大変だろ?」

 ね、と首をかしげたオールマイトがまた微笑んだ。
 オールマイトがいつも笑っているのは有名なことだけれど、このひとは本当によく笑う。偉大なるヒーローなのに、なんて気さくでチャーミングなんだろう。屈託のない笑顔を見ていると、親切心に甘えてもいいかなどと考えてしまう。
 そしてオールマイトが言う通り、たしかに大量の本が入ったエコバッグは重く、手が痛くなり始めていたところだった。

「……お言葉に甘えさせていただきます」

 うん、と小さくうなずいて、オールマイトがこちらに向かって手を差し出した。あっ、と声を出す間もなく、大量の本が入ったエコバッグが、彼の腕の中へと収まった。

「あの……」
「重いだろうから、車まで運ぶよ。なに大丈夫、きちんと返すよ」

 オールマイトほどの人が同僚の荷物を盗むなど、はなから毛ほども思っていない。ただ申し訳がないだけだ。
 だがわたしがそれを口にする前に、オールマイトがすたすたと歩き出した。
 こうまでされて、無理に荷物を取り戻すのも野暮だろう。だから、ありがとうございます、と告げてわたしも歩を進めることにした。

 すると彼は、またやわらかく笑みながら、眉をさげた。

「実はね、少し前からソルティと話をしてみたいと思ってたんだ。一人職種だと、他の教員と話をする機会ってあんまりないだろう?」
「たしかにそうですね」
「司書教諭のセメントスやマイクとたまに話すくらいじゃないかい?」

 そうですね、ともういちど答えつつ、さすがの観察眼、とひそかに思った。
 わたしは寮内でも、あまり同僚と話さない。必要最小限のみの会話にとどまる。定期的に話すのは人懐こいボイスヒーローと、業務を共にすることがあるセメントスくらいのものだ。
 しかしオールマイトは現在、ヒーロー科の主任と職員寮の責任者を兼任している。つまりは教頭のすぐ下のポジションで、学年主任のその上だ。二、三年のうちに教頭になるのではないかという噂も聞いたことがあった。だからこうして偶然出会った機会に、一人職種の人間とコミニュケーションをとろうとしているのかもしれない。つまり管理職として、ということだ。

 ヒーロー科の生徒の学校図書館利用率ってどれくらいだい? ぼちぼちですね、などというたわいない会話を続けながら、オールマイトの手元に視線をうつす。と、大きな拳のすきまから、ラバーでできたなにかが見えた。

「ああ。これかい」

 わたしの視線に気づいたオールマイトが、やや照れながら手をひらいた。大きな手の中にちょこんと収まっているのは、スマートキーだ。おそらくは車のものだろう。そこに球状のラバーアクセサリーがついている。意外なことに、それは子どもむけのキャラクター製品だった。オールマイトは海外ハイブランドのアンバサダーも務めているので、キーホルダーもそのブランド……つまりは高級なものを使用しているのだとばかり思っていた。

「先日売っているのを見かけてね。懐かしくて買ってしまった」

 それはあんパンの顔をした、子ども向け作品のヒーローだった。原作は絵本でかなり昔のものだが、アニメは続いている。易しいストーリーでありながら、その根底にあるテーマは深く、子どもたちだけでなく、かつて子どもであった大人たちからも強く支持されている作品でもある。

「彼は私のルーツなんだ。彼がいなければ、わたしがヒーローを目指すことなどなかったかもしれない」
「そうなんですね」

 と、味も素っ気もない返事をしながら、このひとの自己犠牲の根底はこのキャラにあったのか、と合点がいった。

 八年前、オールマイトが数日間だけ姿を消したことがあった。
 けれどそのたった数日のあいだ、ヒーロー業界はおおいに混乱した。国内のあちこちで、同時多発的に大きな事件が起きたからだ。
 それなのに、オールマイトは現れない。
 今ならば、それはオールマイトがオール・フォー・ワンと戦い、臓器の一部を失った時であったのだとわかる。だが、あの頃はヒーロー業界の中ですら、真実を知る者は少なかった。
 わたしが大けがを負ったのも、実はその時だ。
 そして、その時わたしはオールマイトと同じ、ヒーロー専門病院の同じ病棟に入院していた。だからあの日のあの出来事を、偶然見聞きしてしまった。



「無茶だ、オールマイト。もう引退すべきだ」

 そう言ったのは、ビジネススーツ姿のヒーローだった。

「……皆が私を……探している」

 満身創痍の身体を廊下の壁に預けるようにして、それでもその人は歩を進める。

「私はあなたの為になりたくて、ここにいるんだオールマイト!」

 絶望的なまでの響きを振り払うように、オールマイトは病院を出て行った。



 わたしはあの時震撼したのだ。
 肺をやられ、臓器を失い、外れることのない予知者に自らの死を予告され、それでも世界を救おうとする。その身を平和の礎に。個人であることを捨て、自己を犠牲に世の柱と成る。そこまで崇高な志がなければ、トップは張れないものなのかと。

「……ィ……ソルティ」
「は! すみません。なにか?」
「ついたよ。乗って」

 いつのまにか車の前までたどり着き、オールマイトが助手席のドアを開けてくれている。なんという至れり尽くせり。やはりこのくらいの人になると、何事においてもスマートなのだなと思いながら「恐れ入ります」と言って、助手席に乗り込む。

「どうしたの? 考えごとでもしてた?」
「まあ……そんなところです。失礼しました」
「いや、別に気にしなくてもいいけどさ」

 と、オールマイトは鷹揚に笑った。
 あの日あの病室で、鬼気迫る表情で歩を進めていた英雄とは、まったく別人のような、おだやかな顔で。

***

「あれー、おふたりさん。一緒だったの? デート?」

 一階の共有スペースで、からかうような声を上げたのはプレゼント・マイクだ。

 雄英教師寮の外観は生徒寮と似た作りだが、建物内のつくりは生徒たちのそれとはかなり異なっている。一階に共有スペースがあるものの、上階は民間の集合住宅のように、それぞれの住居にバスやキッチンが備わっており、完全にプライバシーが保たれているつくりだ。単身者向けの部屋は一LDK、家族向けのそれは二〜三LDKとなっている。
 そしてこの夜共有スペースにいたのは、陽気なボイスヒーローと、もうひとり。


「中学生か、おまえは」

 呆れ声を出したのは相澤だ。マイクはいたずらっ子のように笑いながら、続ける。

「いや、デートってのはジョークとしてもさ、ソルティって浮いた話とかねえの? 美人なのに」
「知ってますか。そういうのセクハラっていうんですよ」

 意図して冷たい声を出したが、DJと教師とヒーローの三足のわらじを履く彼は、まったく動じていないようすだった。

「悪い悪い。こいつはちょっとした好奇心ってやつさ。そういや、オールマイトの恋愛話も聞いたことないな。ヒーローを引退したことだし、そろそろそういうのあってもいいんじゃねーの?」

 わたしはともかく、伝説的なヒーローのプライベートにまで躊躇なく切り込んでいくあたり、ボイスヒーローはただ者ではない。おまえ……と、相澤がまた呆れ声をだしたが、マイクはそれも意に介さぬようすだった。
 問われたオールマイトが、やや照れくさそうに口をひらく。

「恋か。現役時代はそれどころじゃなかったからね。気づけばこんな年齢になっちゃったしさ、これからもきっとしないんじゃないかな」
「エー! もったいない。年なんて関係ねーよ。オールマイトなら引く手あまただろうに。なんならきれいどころを紹介するぜ」
「気持ちだけありがたく受け取っておくよ」

 ハハハ、と乾いた笑い声をたてた大先輩にそれ以上のツッコミはできないと判断したのか、そうかァ、と呟いて、マイクがこちらに向き直る。
 いや、その手の話題を何度も振られても困るのだ。

「わたしも、そういった予定はないですね」

 聞かれる前にと、ぴしゃりと告げて、口をきゅっと引き結んだ。これ以上の追求はしてくれるなと心で告げて。
 するとマイクは軽く眉をあげ、静かに告げた。今までとは、まったく違ったトーンで。

「ソルティ、恋ってぇのはさぁ、予定してするもんじゃなく、意図しないところで落ちちまうもんだぜ」

 その日がきたら是非教えてくれよ、応援するぜ。そう続け、彼はふたたびオールマイトに向き直った。

「時にオールマイト。来月、寮出るんだって?」

 そうなんだ、とオールマイトが微笑んだ。
 雄英の職員寮はかの決戦時に建設され、昨年度までは強制的に入居しなければならないきまりとなっていた。だが今年度から制度が変わり、寮への入居は自由になった。それだけ世の中が平和になったということだ。

「六本木の事務所を引き払ってこっちに来たとき、学校の近くにマンションを買っちゃってね。売ることも考えたけど荷物が多くて寮の部屋に入りきらなかったからさ、倉庫代わりにしてたんだよ。入居が自由になるなら、いい機会だし戻ろうかなと思って。マイクはどうするんだい?」
「俺はもうしばらくこのままでいるよ。イレイザーもエリちゃんと残るっていうし」
「別に、俺に合わせなくてもいいんだぞ」
「つれないこと言うなよ、消太ァ」
「やめろ気持ち悪い」

 同期漫才のようなやりとりを微笑ましく見ていると、唐突にオールマイトがこちらに向き直り、また口をひらいた。

「残る人のほうが多いみたいだね。ソルティはどうするの?」
「……実はすこし迷っています。前々からいいなと思っていた物件に、空きがでたらしくて」

 学校からそう遠くない場所に、素敵なヴィンテージマンションがあるのだ。
 アイアンづくりの門の向こうに建つ、七階建てのマンションだ。螺旋階段――もちろんエレベーターはちゃんとある――に、幾何学模様のタイルが敷き詰められたエントランス。建物そのものもおしゃれでとてもかわいいのだが、何より魅力的なのは、ニワナナカマドや白木蓮など、わたしの好きな樹木が植えられた中庭があることだ。家賃は相場よりほんの少しお高めだけれど、国立高校職員の給与で払えないほどの額ではない。

「そうか。物件って意外と出会いだからさ。ピンと来たなら検討してもいいかもね」
「物件といっても、賃貸なんですけどね。でも……そうですね。確かに一期一会みたいなところありますもんね……。前向きに検討してみます」

 うん、とオールマイトが微笑んだ。それに小さく笑みを返してから、それでは、と同僚たちに頭を下げ、わたしは共有スペースを後にした。


 自室の洗面所で手を洗い、すぐにお気に入りのブレスレットを外した。
 五ミリほどの大きさの真珠が連なった、シンプルなデザインのブレスレットだ。真珠は汗や水に弱いので、ブレスレットを日常使いするひとはあまりいないようだが、どうしてか、常に身につけていないと落ち着かない。だからとても大切にしている。
 シングルノット加工はされておらず、留め具もシルバーだから、安価ではないがとても高価なものでもなさそうだ。このブレスレットを手に入れた経緯も――おそらく自分で買ったのだろうが――つけていないと落ち着かない理由もよくわからない。
 なぜならわたしには、一部の記憶がないからだ。

 医師からは、八年前の怪我が原因だと聞かされている。それを裏付けるように、失われているのは怪我した時からその二年ほど前の記憶で、その時期以外のことはよく覚えている。怪我以降の記憶に混乱もない。

 先ほど、マイクに恋の話を振られたが、実のところ、その記憶のない時期には、つきあっていたひとがいたらしい。
 スマホの写真のフォルダには、当時のわたしととある男性の写真がいくつか残されていた。彼は同じ年齢のヒーローで、わたしが怪我を負ったのと同時期に殉職したのだと聞いている。周囲から聞かされた話やスマホ内に残されていたやりとりからも、彼とは睦まじい中であったこともわかっている。
 けれど薄情なことに、わたしには彼について、なにひとつ覚えてはいないのだ。他のことは、点在的に覚えているのに。
 薄情なことに、彼の写真を見ても、何の感情もわかない。彼のために涙を流したことすらもなかった。

 もしかしたらわたしは、人として必要な大切な感情が欠けているのかもしれない。物語を読むのが好きでそれらには強く心を動かされるのに、現実につきあっていた人の死にはなんの感傷もないなんて。
 人から冷たい印象を持たれがちなのも、あながち間違いではないのだろう。

 だからきっともう、わたしは恋などできないのだ。これから先も、ずっと。その資格もない。してはいけない。
 心の底からそう思う。

 過去に関することを思い出せないいらだちと己の薄情さになんとも言えない気分になったので、カーテンを開けて、窓の向こうに広がる春の夜空を見やった。
 漆黒の空に輝く北斗七星のひしゃくの先には、オレンジ色のアークトゥルス。そしてその向こうで輝く、ひときわあかるい青白い星。

「真珠星、か」

 視線をお気に入りのブレスレットにふたたび移し、手に取った。星あかりにかざすように軽くブレスを掲げてから、専用のクロスで丁寧に拭いた。真珠は、汗や水分に弱いから。
 一連につながる白く美しい珠を、ひとつひとつ確かめるように眺めてから、ベッドサイド上のケースに入れる。

「明日もよろしくね」

 物言わぬパールに語りかけ、そっと、ケースを閉じた。

2026.3.1
月とうさぎ