暗闇に浮かぶ二つの眼。それは、血のように鮮やかな色をした真っ赤な紅色の瞳。その瞳はいつだって私を見ている。きっと私は、その瞳から逃れる事はできないのだ。








「名前さん」

春の暖かな風と、その風に揺れる桜の木をぼんやりと眺めていると、不意に心地よい低音の声色が私の名前を呼んだ。春風になびく髪を抑えながら振り向くと、予想していた人物が、優し気に瞳を細めながらこちらを見ていた。

「雪男君、おはよう」
「おはようございます」

私が挨拶をすると、これまた素敵な、ふわりとした笑顔と共に挨拶を返してくれる雪男君。うん、相変わらずのイケメンさんだ。雪男君の素敵な笑顔に見惚れていると、不意に視線を感じた。その視線をたどっていくと、雪男君の横にそわそわとした様子で私を見ている男の子が立っていた。彼は私と視線が合わさったとたん、びくんっと体を大きく揺らした。奥村燐。彼とこうして面と向かって会うのは初めてだ。

「あ、」
「え、あっ、お、俺は」
「…はあ」

二人しておろおろしていると、それを見かねたと言わんばかりに雪男君が小さくため息をついた。人見知りですみません。

「名前さん、彼は僕の双子の兄の」
「おっ奥村燐だ!」

雪男君の助け舟で、どもりながらもなんとか自己紹介をしてくれた奥村燐君。ちょっと目つきが悪いから、怖い人なのかなと思って緊張したけれど、いい人そうだ。

「はっはじめまして、名字名前です!よろしく、お願いします」
「!おっおう!よろしくな名字」
「あっ名前でいいです、名字で呼ばれるの慣れてなくて」
「…おう!わかった!俺も燐でいいぜ!」
「…りっ燐君」
「燐でいい!」
「!…うん!」

雪男君のおかげで、何とか自己紹介を済ませた私たちは、一緒に講堂へと向かうことになった。講堂に向かいながら、私は一人、今の出来事を噛みしめていた。

「(よろしくだなんて、久しぶりに言った…いつぶりだろう)」

そうだ、あの時期から私は人と関わることを避け始めたんだ…


『名前ちゃん、誰としゃべってるの?』
『名前ちゃんって気持ち悪いよね、よくぶつぶつなんか言ってるし』
『やめてよっ!意味わかんないこと言わないでよ!』
『気持ち悪い』
『かかわらないで』
『化け物!!!!』


「っ」

昔の記憶。不意に蘇ったその記憶に、胸がズキズキと痛みはじめる。大丈夫、もうあんな事にはならない。大丈夫、大丈夫…私は自分に何度も言い聞かせながら、いまだ痛む胸をぎゅっと抑えた。

「…名前さん、大丈夫ですか?」
「!」

俯いていた顔を上げると、燐と雪男君がこちらを心配そうに見つめていた。いけない、いつもの悪い癖がでてしまった。私は、二人に気づかれないように小さく深呼吸をした。

「ごめんね、大丈夫」
「…そう、ならよかった」
「本当に大丈夫か?顔色少し悪いぞ?」
「うん、本当に大丈夫…」

心配そうに私の顔をのぞき込んでくる、燐。その綺麗な青い瞳と目が合う。青い瞳、青い炎、サタンの落胤。彼の体にはサタンの血が流れている。燐がサタンの落胤だと教えてくれたのは、獅郎さんだった。彼は「私」だから教えてくれたのだと思う。なぜなら、私も彼と近しい存在なのだから。






紅い瞳が嬉しそうに弧を描いた気がした。



to be continued


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