英雄王と女神の嫉妬



「手に入らないからこそ、美しい。」

思い出した言葉をぽつりと呟いた。すると撫でていた頭がぐるりとこちらを向いた。撫でる手を止め、美しい顔を覗けば、紅玉が訝しげに細められた。

「…いったいなんだ。」

「いえ。以前貴方様が騎士王にそう言っていたな、と思いまして。」

そう伝えれば、嫉妬か?と嬉しそうに口元を引き上げた。そうではないと否定すれば急降下した機嫌。本当にふと思いついただけなのだと弁解する。

「くだらぬことなど覚えておく必要はない。我にはお前だけが居ればよい。」

「あら、エルキドゥが聞いたら泣いてしまうわ。」

「あやつが泣くたちか?」

「そうかもしれませんよ?でも私には貴方様も必要ですけれど、エルキドゥも必要です。王と私の大切な朋友ですから。」

「ふん…。」

私の言葉に王が何を思ったのかは、私のお腹に顔を埋めてしまったから分からず終い。撫でるのを止めていた手を再開し、金糸に指を通す。自分よりも濃い黄金はサラサラと絡まりなく指を通す。うらやましいなあ……。

「手に入らないからこそ美しい…。」

またポツリと同じ言葉を繰り返す。まだ言うかというようにうずめている顔をもっと押し付けられる。少し苦しくなった。

「ねえ、ギルガメッシュ。」

王とは呼ばず名前を呼べば、私の正面に座り直した。真剣な色を帯びる紅が艶めかしい。ああ、この色に私は魅入ってしまった。だから、

「貴様、くだらないことを考えておるな?」

「えっ?」

「まあ良い。我が許す。言ってみろ。」

ギラついた双眸が私を射抜く。紅玉に映る私はなんと情けない顔しているのだろうか。しかしずっと黙っているわけにもいかず、口を開く。

「私を手に入れて、どう思いましたか?」

「ふん。やはりくだらんな。」

呆れ顔になった王に困惑以外の何を抱けばいいのだろうか。くだらないって、そんな…。

「貴方様は手に入らないからこそ美しいと彼女を讃えたではありませんか。では手に入ってしまった私はどうなのですか。」

「ハレク。」

「はい。なん…っ!?」

名前を呼ばれたと思えば突然の口づけ。
ソレは触れるだけなのに妙に長く感じてしまった。

「ギッ、ギル!!」

「ふっ…、愛い奴め。我がお前以外を愛するものか。」

「で、ですが!」

「煩いぞ。もう一度塞いでしまおうか。」

「え、遠慮いたします…!」

突然の甘やかしに耳まで赤くなっているのではないだろうか。顔から火がでそうだ。

「ハレク、良いことを教えてやろう。」

「な、なんですか?」

「貴様のソレは嫉妬というものだ。それにしても、あやつに嫉妬か…。誠に愛らしいな、貴様は。」

しっと…嫉妬…?頭の中で導き出された答えにもっと顔が熱くなった。わ、私…!

「今夜は存分に愛でてやろう。すでにくだらぬ「誓い」も破られておるゆえ心配はいらぬ。思う存分我を味わわせてやる。」

いつものように不敵に笑う王に私は何も言えなくなった。こうなってしまっては梃でも動かない。諦め半分嬉しさ半分で私はうなだれた。嬉しいと思ってしまうなんて、自分も随分と彼に関しては正直である。

「手加減してくださいましね。明日は、貴方様のために種火を集めなければいけませんから。」

「そんなもの、他のやつらに任せておけ。」

「もう……ギルガメッシュったら……。」





2017/01/20 18:03(執筆)
2017/01/25 2:27(加筆修正)


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