英雄王と人間



※令呪位置決まってない頃に執筆した話※

キイキイと車輪が鳴る。そろそろメンテナンスに出さないといけませんねと金の子供は私の隣で笑う。その背丈では車いすを押すことが出来ないのに、彼は私を車いすに乗せたがる。今の私は歩けると抗議をしたこともあったが聞く耳を持たなかった。子どもながらに暴君っぷりは変わらないらしい。
他愛のない話をしながらカルデアの外を眺める。相変わらずここは吹雪いているなあ。人理を修復した日以来また太陽を拝んでいないような気がする。

「…げ、」

隣から呻きにも似た声が聞こえた。その瞬間右手に痛みが走る。じわりと熱くなった手の甲を見るために恐る恐る手袋をとる。そこには、昔に見た赤い入れ墨のようなものが浮かんでいる。これは…。

「ギルくん。」

「…行くんですか?」

「ええ。私は行くわ。…呼ばれてしまったからね。」

ひらりと手の甲を見せれば、ギルくんは苦虫をつぶしたような顔をし、僕だけのマスターだったのに、と呟いた。そう。何を隠そう私は子ギルと契約しており、彼の令呪は右腕にある。しかし、まあ、なんというか。

「ギルガメッシュは私が好きなんですか?」

「何を今更言っているんですか。あなたは正妻なんですよ?」

「それは"前"の私でしょうに…。」

「今も、ですよ。マスターで正妻なんです!」

なんて無茶な理屈だ。そう言ったところで彼らには通用しないのだろうけど。

「我を待たせるとは不敬であるぞ!」

「あ、向こうから来ましたね。」

「そうですねえ…。王よ、再びお会いでき嬉しく思います。」

「堅苦しいのはいらん!それよりも、貴様は、」

「…呉羽です。」

「ふん、そうか。」

私と王の会話を驚いたように見ているのは後ろから追いかけてきたであろうマシュと弟子の立香くんだ。そういえば、彼が英霊を呼び出す!と意気込んでいたから、触媒を面白半分で貸してしまったんだっけ。

「あの触媒で、貴方様をお呼びできるとは思いませんでした。」

「……妻の物だからな。」

「正妻の、ですよ。他のじゃこないくせに。」

今まで黙っていたギル君が口を挟む。…これは珍しいものを見た。あの王が嫌そうな顔をしている。

「貴様が、なぜ?」

「この時空では別個体みたいなので召喚されただけです。と、言ってもマスターは呉羽さんですけど。」

僕が彼女のハジメテです、と可愛らしい笑顔のギル君。なんだか誤解を生みそうな発言だなあ…。

「そうだ、王様。なぜ立香くんをマスターと認めなかったのですか?」

「我に相応しいのは貴様であろう、呉羽。あの戦いを忘れたわけではあるまい?」

「……あの時空であって、その時空ではないんですが…。王に認められたことは大変誇らしく思います。」

改めてよろしくお願いいたしますと頭を下げる。これからどうしようか。この金ぴか二人がそろってしまってはうるさいのは確実だ。好かれるのは嬉しいが毎回うるさいのは嫌だ。

「立香くん。」

「はい?」

「王様を部屋にご案内してあげてください。」

「呉羽、貴様は我と同じ部屋であることを許そう。」

「話聞けよ。」





2017/01/20 21:36(執筆)
2017/01/21 17:41(加筆修正)


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