「再臨おめでとうございます、ハレクさん。とても綺麗です。」
「ふふ。ありがとう、マシュ。」
先ほど手に入った最後の素材でついに私の再臨は終わりを告げた。この衣装を着るのはとても懐かしい。そしてこの再臨で浮かび上がった刺青を撫でる。今もこれを使えるのだろうか。それにしても、よく素材を集めたなと感心する。私が召喚された当時は使い切っていた素材もあったというのに。
「立香。よく、頑張りましたね。心から御礼申し上げます。ありがとう。」
いつまでも呆けている立香に声をかける。すると何故か彼は泣き出してしまった。慌てふためくマシュを他所にマスターは私の手を握る。あまりにもみっともない顔で、ちょっと笑ってしまった。
「師匠が……!師匠がお嫁に行ってしまう……!」
「ん……?」
「あの、先輩。ハレクさんは元々ギルガメッシュ王の妻ですよ……。」
「ベールって!!白のドレスって!!……おめでとうございます……。」
「ありがとう……?」
何かを勘違いしているマスターと困惑している私とマシュ。混沌とした空間が出来上がってしまった。何をどう勘違いしたのかはあえて聞かない事にして、つい先程使えるようになった宝物庫の鍵を開けてみる。すると見慣れた金の波紋がポツリと目の前に浮び上がった。
「そ、それは……?」
未だ気が付かないマスターとは違って、マシュは目を見開いた。だってそうだろう。彼女達はこれを見慣れているはずだ。しかし見慣れたものは数多くの武器を発射させている光景だろうが。
「"鍵"が返ってきたので、使えるようになっただけですよ。……見慣れているでしょう?
「……!驚きました。貴女も使えるのですね。」
「ええ。といっても、ギルの宝物庫を勝手に開けて使っているだけよ。合鍵みたいなものね。」
マシュと話しながら探し物をする。どこにおいたかしら?……あった。目当てのものを引っ張り出せば綺麗なシルクのハンカチが出てきた。
「それは……ハンカチですか?」
「お礼としてはちょっと華がないけれど今1番マスターに必要でしょう?」
顔を拭いて、とマスターにハンカチを差し出す。それを受け取ったマスターはそのハンカチに顔を埋めさらに泣き出した。嬉しくて訳の分からないことを話しているようだ、とマシュは言う。
「それと、先輩は昨日の夜にハレクさんの話を読んだようで……。」
「ギルガメッシュ叙事詩?」
「はい。それで、その、」
「……再臨姿が、物語と同じようになっていったから何かしら思ったって事かしら?」
「先輩がまともに話せていないので、推測にすぎませんが……。」
ギルガメッシュ叙事詩。そこに私はどう載っていただろうか。自己犠牲精神や犠牲愛の象徴なんていう人もいた気がする。そして、純愛だ、いや、悲恋だ、とそういう人もいる。……まあ、どう言われようが、この姿は死ぬ直前の姿であるのには間違いはない。
「……皮肉なものですね。」
「え?」
「だって、この姿が一番落ち着くんですもの。」
この姿は、ギルガメッシュに無理やり誓いを破られた後だ。破られて、部屋に閉じ込められていた時から着ている。
「どう頑張っても、あの人を嫌いにはなれないのですね。」
「ハレクさん……。」
「今度は!!幸せになってくださいね!!」
「……あの人が居ないのにどう幸せになれと?」
意地悪な質問したな、と思ったが、マスターは涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔で俺が王様連れてきます!と言い放った。慰めかと思ったけれど、どうやら本気のようだった。そして、有言実行を成し遂げる日が来るのはまた別の話であった。
2017/01/28 10:18(執筆)
2017/01/30 10:10(加筆修正)