「……あれは、いいの?」
不意にかけられた声に振り向けば、複雑な顔でどこかを指さすマスターがいた。その方向を見れば、我が王と騎士王アルトリアがいる。……ああ。
「いいですよ。いつもの事だから。」
「いつもの事……。」
「ええ、いつもの事です。」
マスターには、いつも、といってもピンとこないのだろう。私かエルキドゥと居るのをよく見ているから。それに、私が言ういつもの事というのも時空が違うためなんとも説明しがたいものがあるので説明する気は一切ないが。
「でも、あれ口説いてない?本当にいいの?」
「正妻にしてやろう!でしょう?」
「え?側室にしてやろう、じゃないの?だって、ハレクが正妻なんでしょ?」
「えー……、うーん、多分?」
「多分!?」
驚くマスターをよそに考えるのは現界した後の王の事だった。確かに生前は彼にとって私は妻だったかもしれないが、例の聖杯戦争の時から既に騎士王を口説いていた記憶がある。私は別に地位にこだわっている方ではないので、今世(というとちょっとおかしいかもしれない)で側室になろうが、エルキドゥのように友と呼ばれようが、べつに誰と王がくっつこうが関係ないと思っていたりする。
「なんだか、それじゃあハレクが可哀想だよ。」
「そうですか?」
マスターの言葉に首をかしげる。可哀想。そうなのだろうか。自分で納得してるのだからそんなことはないような気がするけれど……。
「何の話だ。」
「あら、王様。いらしたのですか。」
深々と一礼して出迎える。一人のところを見ると、どうやら騎士王とは別れたようだ。飽きたのか、逃げられたのか。どちらにせよ、アルトリアを労わってあげようと思った。
「あ、」
すると私と王に挟まれるようにして立っていたマスターが何かを思い出したように声をあげる。すると、種火集めに行かなきゃなんだった、と、
「そういえば、私とエルキドゥに召集がかかっていましたね。」
「あー、ハレクは王様と此処にいていいよ。別の人に声かけてみるし。」
「あ、ちょっと!」
待てと声をかける前にマスターは行ってしまった。私のお仕事が……。
「雑種と何を話していた?」
「…特に何も。」
「ほう?」
王の気にすることではないと口にしてもこの人ならば聞きだすまでは解放してくれないだろう。しかし、なぜそこまで気になるのか。どうでもいい話ですよ。
「王の正妻が、私なのか騎士王なのか、という話です。」
それでは仕事に行くのでまた後でと言ってマスターの後を追おうと思ったのだが腕を掴まれあえなく失敗に終わった。……今度はなんですか?
「我はいつも、」
「いつも私だけ、と言いいますけれど貴方様は他に目を向けているではありませんか。私はいつも貴方様の事しか考えていないというのに……。なのに信じろと仰るのですか?」
いい加減にしてください、と思わず漏れた本音に後悔した。そうだ、気にしないなんて建前だ。私は聖人じゃない。嫉妬心を持つ、卑しい人間だ。女神の時のような高潔さを失った人間なのだ。こうなってしまえばもう自暴自棄である。
「……貴方様なんて騎士王の所にでも行っていればいいのよ!私はエルキドゥとかクーとかエミヤの所に行くから!!」
もう知らない!と子供のように癇癪を起こせばなぜかギルガメッシュは笑っていた。いや、笑っている、はずなのだ。なのだが、目が笑っていない。むしろ人を殺せそうな殺気のこもった目をしている。
「ハレク。」
「は、い!?」
名前を呼ばれたかと思えば、ドンと廊下の壁に追いやられる。横にはたくましい腕、目の前には端正なギルの顔がある。……なんでしょう、この状況。誰か通ったらどうするんですか。
「貴様を嫉妬させる、というのは実に愉快であり、心が満たされた。が、この様な結果になるとはな。」
「は……?」
「友までは許そう。だが槍兵と贋作者まで出てくるとは……。仕置が必要なようだ。」
「ぎ、ギル……?」
いとも簡単に服の中に侵入してきた手にドキリとする。どうしてこうも無防備な服装なんだと今なら言える。洋服はあんなに完全防備なのに!!!しかし、幸いにも拘束されていないので逃げ出そうとしたが、びくともしない。くっ!筋力の差が憎い……!もう誰でもいいから通ってよ……!
「あ、ギルとハレク。ここにいたんだね。ちょっといいかな?」
「え、エルキドゥ!!!」
不意にかけられた声にギルの意識がそちらに向いた。その隙にギルを押し返し、脱出する。助かった……!
「……なんだ。」
「マスターがやっぱりハレクを連れていこうと言っていてね。迎えに来たんだ。」
「いっ、行きます!今すぐにでも!」
服の乱れを急いで直してエルキドゥの隣に並ぶ。先ほど行かぬと言っていたが、と文句を言う王様は無視だ。文句はマスターに直接どうぞ!!
「いいのかい?"お楽しみ"とかいうやつじゃなかった?」
「どこでそんな言葉覚えたんですか!!そんな事言っちゃダメですよ?秘密です。」
「そうなの?わかったよ。それにしても、帰ってきてからのギルの荒れっぷりが酷くないといいね。あれは結構怒ってたよ。」
「ですよね……。どうにか機嫌取り頑張ります……。」
「あはは、僕も手伝うよ。」
「ありがとう、エルキドゥ……。とりあえずお仕事頑張りましょうね。」
2017/01/27 1:12(執筆)
2017/01/30 9:41(加筆修正)