リブレと






雲一つない晴天を背景に至るところから湯気が立ち上っている。温泉独特の硫黄の匂いと暑さが充満するフエンタウンに俺は今日来ていた。お目当ては1つ。ホウカさんが贔屓にしている漢方屋さんだ。既に何回か行ったことがあるが、あそこはすごいと思う。その漢方屋の主、カヤさんはポケモンはもちろんの事、頼まれれば人間用の漢方まで作っている。おまけにお土産もくれる優しい人だ。健康な俺はホウカさんの用事ぐらいでしかお世話になることはないがここに来るのは楽しみの一つでもあった。

「こんちわー。」

営業中という事を看板で確認し、ガラガラとドアを開け中に入る。すると奥から、いらっしゃいと声をかけられる。カヤさんだ。どうも、と軽く頭を下げ奥へ進む。ホウカさんから話を聞いていたのかカヤさんの手元には既に包装された漢方薬が置いてあった。

「いつもありがとうございます、ってホウカさんが言ってました。あと、これ代金っす。」

「こちらこそ。ホウカくんには、いつもご贔屓にあずかりありがとうと、伝えてくれるかな?」

「はい。…ところで、毎回気になってたんすけど、この漢方がなんなのか聞いても支障ないっすかね…?」

「これかい?これは『当帰芍薬散』だよ。ホウカくんは『当芍美人』だからね。」

とうきしゃくやくさん?とうしゃくびじん?ふーむ、良くわからねえ…。カヤさんの口から出た専門用語に首をかしげるとカヤさんは控えめに笑った。いや、興味本位で聞いた俺もアレだけど、わかるわけねーよ!?と、そんな感じで色々と話していればガラガラとドアが開く音がした。現れたのは同年代の女の子だった。

「こんにちはー!」

「おや、いらっしゃい、コナラくん。」

「カヤさんこんにちは!おつかいで、お薬取りに来ました!」

女の子のその言葉に誰のお使いなのかは言わなかったものの察しがついたのだろう。取ってくると言ってカヤさんは奥へ姿を消した。残された俺は少しだけ女の子を観察することにした。その子はホウカさんよりも水色(確か、あの色味は白群色といったか?)のショートヘアに茶色のテンガロンハットのような帽子をかぶっていた。パッチリとした大きな俺よりも深い紫色の瞳はキョロキョロと忙しなく動いていたかと思えば、俺を視界に捕らえたあとはピタリと俺から動かない。ジーッと目線が合ってしまい一方的に気まずい。どうしたものかと考えていれば、自分とは違う女の子らしい高めの声が聞こえた。

「あなた、だあれ?私はコナラ!ここに居るってことはどこか具合でも悪いの?」

「あ、いや。俺もお前と同じおつかいだよ。どこも悪くねぇ。」

「名前は?なんていうの?何歳?」

「な、名前はリブレ。歳は15。」

「わあ!同い年だ!私も15なの!」

きゃっきゃとはしゃぎ質問攻めにしてくるコナラにタジタジになる。お、女ってこえええ…!!終いには誰のおつかい?と聞いてきて、うっかりホウカさんと答えれば向こうも知り合いだったのか話が盛り上がった。ここが漢方屋ということも忘れ盛り上がっていれば薬を持ってカヤさんが帰ってきた。

「随分楽しそうだね?」

「あ、すんません!」

「私、リブレくんと仲良くなったの!ホウカちゃんのパシリ?なんだって!」

「パシリじゃねーぞ!?友だt…いや、友達だとしっくりこねえな…。あれ…?」

「じゃあ、やっぱりパシリじゃん!」

「そんな不名誉嫌だ!!!……よし、分かった!部下だ!!部下!!」

なんとも不名誉な称号に反論すればまたもや騒がしくなった。見かねたカヤさんが、コナラくんと一声かけ薬を渡すことで事態は収拾した。カヤさんから薬を受け取ったコナラは何事も無かったかのように颯爽とまた遊ぼうね!と言って漢方屋を後にした。



俺と彼女のアレやソレ



「なんなんだ、あの子…。あ、カヤさん、すんませんでした。じゃあ、俺もこれで…。」

「気をつけて帰るんだよ?あと、これホウカくんと分けてね。」

「お、フエンセンベイだ!あざーっす!」

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