リブレと






シトシトと冷たい雨が降る。梅雨はとっくに過ぎ、夏さえ過ぎたというのに連日雨が降っていた。しかしそれはホウエン地方の話で、もしかしたら俺が知らないだけでカロス地方ではこの時期が梅雨なのかもしれない。

pipipi...

「ん?もしもし?」

『Allo?リブレ?今暇かしら?』

「暇っつーかお前いないと出れないっつーか…。」

そう、俺は今カロス地方に留学中でメグの家で世話になっていた。家主が居ないのに外に出てもいいものか、という言い訳をしつつ実をいえばまだ慣れてない土地で迷子になりたくないだけなのだ。なんとまあ情けない。自分で分かってるから言うなよ?

『あのねえ…、外に出なきゃ覚えられるものも覚えられないわよ?』

「言われなくてもわかってるっつーの!」

『というわけで、今すぐ迎えに来て。傘持っていくの忘れちゃった。』

「お前さぁ…、……仮にも有名なんだからそんなことして撮られたらどうすんだよ。」

『仮じゃないわよ!これでも人気出てきたんだから!!……撮られちゃったら隠すこともないじゃない?』

メグの言葉に思わず出そうになったため息を既で止める。全く自分勝手というか、なんというか…。行きたくないと一言断ればいいものを、彼女の言葉に頷いてしまうのは惚れた弱みなのか。……まあ、頼られるのは正直嬉しいよなあ。それに行きたくないわけではないし、きっと彼女もああ言うしか性格上出来ないのだろうと言うのは学習済みだ。

「…傘は1本でいいか?」

『…!ええ!1本あれば十分よ。』

「わかった。ちょっと待ってろ。」

待ってるという彼女の言葉を最後に電話は切れた。
メグは今日ミアレシティで仕事だって言ってたし、スタジオもさほど家から遠くなかった気がする。この雨じゃ寄り道は出来なそうだしなぁ…とデートコースの算段をたてながら、自分の荷物と大きめのピンクの傘を持って家を出る。もちろん戸締りも元栓の確認も忘れない。その際に、俺、このまま主夫になったほうがいいんじゃないか…?なんてアホなことを考えるくらいには浮かれている自分に苦笑いが出た。俺も随分と変わったなぁ。

「このまま止まねーかな…?」

電話をしている間に雨の勢いはなくなっていたらしい。足を踏み出す度にビシャビシャと水音が耳につく。そういえば、メグはいつものヒール靴で行ったのだろうか。それだけが心配になった。色とりどりの傘の群れに混じり歩くこと数10分。変装もせず堂々と立っているメグを見つけた。声をかければ第一声は遅いの怒号。悪いと素直に謝り、メグの手を握る。ああ、冷たい。寒さで震える彼女を見た瞬間、さっきまで考えていた遠回りなんてどこかに吹っ飛んで家に帰ることだけを考えた。

「女性が体を冷やすもんじゃないぜ?」

「誰のせいよ、だ れ の!」

「…俺だな。待たせて悪かった。帰ったらホットミルクでいいか?」

「ふ、ふん!物でなんかつられないわよ!」

「そうじゃねーよ…。…そういえば靴は?」

「今日の天気は雨だって言ってたからレインブーツよ。」

「…天気予報見たんだな?」

「…!み、見てない!見てないわよ!見てたら傘なんか忘れるわけないじゃない!貴方と出かけたかったとか思ってないわ!」

「あはは!そうか、そうか。俺に迎えに来て欲しかったわけだ?」

違うって言ってるでしょ!と顔だけではなく、首や耳まで真っ赤に染めあげたメグを見て嬉しく思う。……素直じゃないなぁ、本当に。

「さ、家に帰ろうぜ?」

「……ありがとう。」

「…!いつでも呼んでくれていいんだぞ?」

「調子に乗るんじゃないわよ!もう!」

「ははは、悪ぃ!…さてここで問題です。傘は俺がさしている1本しかありません。」

「…ふふっ、馬鹿ね。1本でいいかって聞いたのは貴方でしょう?」

「それもそうか。ほら、濡れるからもっとこっち来いよ。」






雨のち傘

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