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この世には、輪廻転生という言葉がある。
車輪が回り続けるかのように、この世にあるすべての命が何度も生死を繰り返し、新しい生命に生まれ変わると、とある宗教の中では信じられている。

しかし、本当にあるのかなんて誰にも分からない。

輪廻転生をする人は死んでしまっている人だし、死んだ人は口を訊けない。輪廻転生を経験した人は生まれ変わって、前世の記憶なんて忘れてる。本当に存在するのかなんて、誰にも分からない。本当は存在しないのかもしれない。それでも人は信じてしまう。死が怖いから。もっと生きていたいから。

なんて愚かなことなんだろうか。

わたしは死ぬ間際まで、そんな風に思っていた。
人はいずれ死ぬし、抵抗したところで生き返ることは出来ない。ただ受け入れ、待つだけ。それが生きとし生けるものの定めなのだと、そう思っていた。

アスファルトに広がる暖かい血液を眺めながら、途切れていく命をただ受け入れていた。あぁ、大したことのない人生だったな、と。たかが二十何年の日々を繰り返し思い返して。人生に一つだけ心残りがあるとしたら、あの時”アイツ”を見逃してしまったことだ。でも結局死ぬのだとしたら。

もう全部、どうだっていい。

そう思った瞬間、失っていく血液に比例して冷えていた身体が急激に暖かくなっていた。それは初めての経験で、例えるならわたしの知り合いが人を殴るときに良く発動させていた”異能”を使った時のように身体中に電気が走るような感覚だった。

何かがおかしい。わたしは異能をもっていないはず。
困惑のなか視界は暗闇に覆われ、わたしの意識は途絶えた。



次に気が付いた時には、わたしの視界には天井が広がっていた。



天井にぶら下がったおもちゃ、わたしのものと思われる小さな手のひら。こちらを振り向いて笑いかける若い女性。その女性の口から聞こえた、わたしのものではない名前。

「かわいい名前、わたしの天使」



どうやらわたしは、輪廻転生したようだ。