集え!若人たちよ!

「……」
「あっ、そこでそのカウンターかけんの?なるほど」
「……」
「うーわっ、やばすご、なにいまの」
「……」
「ひゃー勝っちゃった!強すぎ研磨くん!!」
三日目の夜、二日間朝ごはんの支度をしていた俺を気遣って先輩方が準備を変わってくれたため、早めにお風呂に入って自主練をせずに上がった研磨くんのところへやって来た。みんなはまだ練習してたり、ご飯食べてたり、お風呂に入ってたりで部屋にはふたりきり。研磨くんがゲームしているところを横でじーっと見てる。独り言が多すぎたのかゲームをクリアした研磨くんが、複雑な面持ちでこちらを見た。

「あ、うるさかった?」
「……うん」
「ごめんごめん、ほらアップルパイあげるからさ」
「餌付けしないでよもう……」
「じゃあいらない?」
「、いる」
プイっとそっぽを向くような仕草で、俺の手元からアップルパイを奪っていく研磨くん。彼がこれを好物としているのはリサーチ済みなのだ。福永くんが教えてくれた。

「なんでここに居るの」
「?研磨くんと仲良くしたかったから?」
「……葵って結構めんどくさいよね」
「ええっ、今ので何が分かったっていうの?!」
「あとセッターに好かれやすい」
「ええん研磨くんが謎すぎる……そしてそれなら研磨くんも俺を好きってことになるよ……」
コイツ何言ってんの?って顔に耐えられなくて、思わず顔を手で覆いました。調子に乗ってすみません。研磨くんって烏野バレー部にはいないタイプだから、無駄に構いたくなるといいますか……もっと話してくれると嬉しいんだけど、日向いわく研磨くんはゲーム以外は興味なしって感じだそうで、こうやって遊びにでも来なきゃなかなか話してもらえない。研磨くんは犬岡と違って、まさに猫って感じ。

「見ててもいいから静かにして」
「はーい」
ほらね、気まぐれな猫ちゃんだ。


***


「葵くんてさー、いつでもお嫁に行けそうだよね」
「嫁ですか?ええっ、俺お嫁さん貰えないんですか?」
「え、なに、その童顔フェイスで料理ができるハイスペックさと運動ができないギャップを持ち合わせていながら抱く側なの?!」
「えええ……黒尾さんなに言ってんのか意味不明……」
「シカトしていいよ葵」
合宿もあと少しで終わりますねってところで、黒尾さんが一緒にご飯食べたいって言うので隣りに座って食事中。今夜は焼きそばです。食べ盛りな皆さんはご飯も合わせて、炭水化物オン炭水化物してる。すごいよねえ、同じ高校生徒は思えない、胃袋の大きさ。俺は普通にお茶碗一杯でお腹いっぱいのところを、彼らはおかわりをするんだから。西谷とかさ、どこにその飯入ってくの?って感じ。本人に言ったらぶん殴られそう。

「そんなこと言ったら、黒尾さんだってカッコいいんですからすぐ結婚できそうですよね」
「それは褒められてる?イケメンハイスペック野郎にそんなん言われてもな〜」
「褒め言葉は素直に受け取って欲しいですね……黒尾さんタイプの先輩居ないんで、対応に困ります!」
やいのやいのやってたら、後ろの席に座ってた大地さんからうるさいぞってお小言を貰ってしまった。反対隣りに座ってる京治くんは無言で黙々とご飯を食べ進めている。なんだこの光景。
黒尾さんも流石に静かになって食事を進める。あ〜楽しかった合宿も明日でおしまい。また宮城に戻って、雪辱を晴らすべく練習、練習の日々が待っている。この合宿で、選手たちは確実に強くなった。具体的な攻撃力とか守備力とかはまだまだかもしれないけれど、みんながみんな、自分自身の伸びしろを理解してそれを伸ばすべく必死になり、歩きだしている。時間はかかるかもしれないけれど、雑食な烏はいくつもの餌を手に飛びたてるはずなんだ。

「…俺も、なんか頑張れるかな〜」
「……何が?」
「また京治くんに会えるように、どうしたら練習に貢献できるかなって」
「今でも十分頑張ってるんじゃ?烏野のみんな、葵のことすっごい頼りにしてるじゃん」
「そう?他校の人からもそう見えてるなら嬉しいね」
選手が道に迷ったとき、その先へ導いてくれる指導者がいる。じゃあ、マネージャーが道に迷ったら、一体誰がその手を差し伸べてくれるんだろうか?





***





「にっくぅぅうう!!」
「にく……っ!」
「ほれほれ涎は拭けよ〜あい、カルビ!ってコラ!西谷!鶏肉はもっと焼かないとダメだぞ!」
「ふがっ!」
「だぁーもう!リエーフってば!水飲んで水!!」

「……あそこだけ保育園みたいじゃない?」
「あははっ、葵楽しそうだな〜」
「あれを楽しそうって言えんの、スガだけだよ…」
梟谷グループ合宿史上最多の連敗を記録したであろう夏の合宿は、つい先ほど幕を下ろした。いやあみんなそれぞれ新しい武器に挑戦していたけれど、うまく嚙み合わない歯車がどうにももどかしくて。やっちゃんとふたりで何度も惜しい声を出してしまった。いけないいけない。これが試合だったら、自分にヘッドロックかましてることだった。

「先輩方も、ありがとうございました。やっぱ手際の良さは三年生に勝てないですね!」
「またまた〜ほんとおだて上手だよねぇ」
「次、会えるとしたら春高だね。みんなにもまた会いたいし、アイツらにも頑張ってもらわなくちゃ!」
きゃははと高い笑い声が集うマネちゃんズゾーン。選手たちがこちらに入りたそうに見ているが、ガードマンが三人も居るので誰も近寄れない。山本くん、清子さん教徒になったのね。


「……よしっ、俺も頑張ろっと」
「……ろくでもないこと考えてたりしない?」
「え?突然不穏な気配を察知しないで?どったの京治くん」
「葵の頑張るは、時々変な方向に向かっていくからさ。心配しただけ」
「京治くんは俺のことよく分かってるよねぇ。でも安心して!烏野が全国に行くために頑張るってだけだから!」
次コートで会う時は敵同士だかんね!
笑いながらビシッと決めてやれば、京治はいつもの表情で楽しみにしてると言いながら肉に手を伸ばした。




20200705