胃袋捕獲大作戦!

通学時間は徒歩で十分程度なのに、ちょろっと日差しの下を歩くだけでワイシャツが張り付くような、そんな季節がやって来た。そう、夏!夏休みですよ!先週末から始まった夏休みは、まあとても暇な毎日を過ごしておりまして。歌うの好きだし軽音楽部にでも入っちゃおうかな!?とか思ったけど、楽器なんて弾けやしないので変わらず帰宅部のまま。両親も居ない学生の夏休みは驚くほどすることがありません。ってことで、急遽東京に居る京治の家に遊びに行くことになった。

「けーいじくーん、あっそびっましょー!」
「……暑さにやられた?」
「どちらかというと、ひとりぼっちにやられた」
暑さなんてへっちゃらだぜみたいなクールな視線を寄こしてくる京治は最寄り駅まで迎えに来てくれて、さりげなく俺のキャリーケースを手に取った。昔から、こういうことを何の気なしに熟してしまうくせに、この無表情な幼馴染は彼女ができていないらしい。おかしい、こんなに顔が良くてクールだったら女子中高生にモテてもおかしくないのに。あ、でもこの人脳内の八割がバレーボールで出来てるんだった。残りの二割は美味しいご飯。

「おばさんたちもう行ったの?」
「うん。キッチン好きに使っていいって」
「今日はねー、この間作った筍の炊き込みご飯が予想以上に美味しかったから、それ作るつもり」
「いつものは?」
「菜の花の辛し和えも作りますよ京治くん」
赤葦家のご両親は今日から一週間ほど実家に帰ってるそうで、俺はその間の京治の食事の管理を任されているのである。宿を貸してあげるからぜひ来てほしい、とおばさんから連絡があって、二つ返事で東京行きを決めた。休みの日に遊ぶ約束をしてた田中にはごめんねって連絡をしたので許してほしい。京治の通う梟谷高校バレー部は全国大会常連校らしくって、来る日も来る日も練習してるそうな。7月中だけ月木が休みらしいんだけど、体育館は開いてて自主練しにみんな来るらしい。休みとは。

「練習いいの?」
「葵は行って欲しいの?」
「聞き返すのずるくない?京治は相変わらず意地悪だなあ」
「で、どっち?」
「……居て欲しいです。いっぱい喋りたいよ!もう退屈なんだもん!!」
京治の家に着いて、涼しい空気が俺を包んでくれる。あー、宮城に比べるとほんと東京は暑い。暑さの類が違いすぎて呼吸すらしんどかったぞ。ずかずかとリビングへ歩いていけば、京治がおばさんが用意してくれたであろうアイスとオレンジジュースを用意してくれてた。

「一休みしたら買い物行く?お金は貰ってる」
「泊まらせてもらうんだからお金出すよ?」
「母さんが許さないと思うから使い切ったら、払って」
「おけー。あ、あとこれ。お土産ね、何がいいか分からなくていっぱい買っちゃった」
「……カバンが多いと思ったけどこれ全部か」
去年よりお土産多いよ。京治の突っ込みに思わず苦笑い。二度目の人生なんですが、どうも我が家は金持ちらしく、幼い頃から『迷うくらいなら全部買う』という教育方針だったがために、こういう時に買いすぎてしまうのだ。あと、奉仕精神っていうの?喜んでもらえるって思うと、買い物する手が止まらないんだよね。両方が掛け合わさった結果、常に大量買いをしてしまったり、材料に拘りすぎてしまったりするのである。

「この一週間で京治の胃袋掴んじゃうぞ!」
右手の拳をグッとして力強く宣言したら、京治が笑った。小さな声で、もうとっくに掴まれてるけどねって呟いたのは、俺まで届かなかった。


20200406