大好きな妹/まりあ高二春(Pん)

ひとりで空を見上げていると、誰かが近づいてきた。


「よお」
「なんだ、旭か」


やっぱり、見つかった。
どうして、こいつはこうなんだろう。なんでもないような顔で私の前に現れる。
そもそも、どうして私がここにいるって分かったんだろう? 野生の勘……?

いつも、こうだ。私が隠れていても、旭にはいつも見つかってしまう気がする。思わずジトっと睨んでみたけど、効果はない。


「どうした?」
「食べ物はないわよ?」


残念ながら今はなにも持っていない。
旭のことだから食べ物目当てだろうと思ったんだけど、呆れたような笑顔を向けられた。


「おまえは、俺をなんだと思ってるんだよ」
「……ごめん」


よっ、と私の隣にドカッと座った旭が壁に寄りかかる。


「……」
「……」


黙ったまましばらく二人で空を見上げた。
なにも言わなくても、隣に旭がいるってだけで、ほんの少し、気持ちが和らいで、ことりといる時みたいに、穏やかな時間が流れる。


「……トレーニングは?」
「んー……、してるぞ? 今は休憩」


そういいながら眠そうにあくびをする。
このまま眠ってしまいそう……、というか、絶対寝るわ。案の定、旭は眠りに落ちた。


「全く……、なにしに来たのよ」


ちょっと呆れたけど、別に嫌ではない。そもそも旭はこういうやつだ。
眠りに落ちた旭の横で抜けるような青い空を見上げる。まだ、動く気にはならない。
ひとりじゃないからだろうか、隣で寝ている旭の寝顔を見る。

眠ると少し幼い感じになる。今の旭を見ていると、とても強いようには見えない。
あどけなく寝ている顔を見てたら、なんだか文句を言う気も失せた。

――ことりが、ひとめ惚れをしたとかで、ずっと片思いしていた男と、ようやく両思いになった。
ことりの幸せそうな顔を見るのはものすごく嬉しいけど、やっぱり寂しいし、悔しい。


私が、あの子の一番だったのに。


いつかこんな日が来るだろうとは思っていたけど、……思ったよりも早かったってだけだ。

生まれた時からずっと一緒で、ことりは私の大事な妹で……。
でも、あの子が幸せそうだから、私はあの幸せが壊れないように守るけど。
もしも泣かせたら、あいつを海に沈めよう。そう心に決めたら少し気が楽になった。

そのタイミングを見計らったように隣の旭のお腹が盛大に鳴った。


「……腹減った」
「旭……あんたねぇ」
「なあ、まりあ、腹減った。なんか食いに行こうぜ?」
「……」


相変わらずマイペースなんだから。しょうがないわね。とため息を吐く。
旭が真っ直ぐに私を見つめる。今はなにを食べようかってことで頭がいっぱいなんだろう。


「オッケー、いいわよ。付き合うわよ」
「おう。ラーメンでいいか」
「そうね。私、チャーシュー大盛にしよっと」


こういう時は肉を食べるに限るわよね。
今日はモヤモヤした気分を吹っ飛ばすためにもたくさん食べようっと。


「俺は餃子も食う」
「あ、私も」


ぐ〜〜、とまた旭のお腹が鳴って、旭が私を見る。


「行くぞ」
「ハイハイ」


まだ空が高い。旭と一緒に立ち上がる。
どうせことりはバイトで遅いだろうし、今日はとことん旭に付き合ってもいいかもしれない。
ほんの少しのモヤモヤした気持ちを旭が吹き飛ばしてくれたような気がして、息を吐く。

ことりと両思いになったからって、油断なんてしないでよね。私は、誰よりもことりの幸せを祈ってるんだから。

まあ、及第点は越えているから、当分は様子見だ。
私のことは知らないはずの、ことりの惚れた相手に心の中でそっと警告を発しながら、旭の背中を追いかけた。