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第2Q


a.m.5:00


『冬玖おはよう』
『おはよう冬璃』


目覚ましが鳴り、同時に目を覚まし、同時に目覚ましを止める、同じベッドで寝る男女。習慣の為、二人の目に眠気は感じられない。挨拶を交わしベッドから降りると、それぞれのクローゼットへと向かい、着替えを取り出す。そして何の躊躇いもなくその場で寝間着を脱いだ。


『まだ朝部活はないんだっけ?』
『おー。ていうかまだ本入部届けすら貰ってない』


互いに裸同然の状態なのに何も気にしないのは二人が双子の兄妹だからだろうか。平然と普通に会話を続ける。


『今日貰いに行くつもり』
『うん、早い方がいいよ。ロードワークは行く?』
『行く』


兄の冬玖は動き易いジャージ、妹の冬璃は学校指定の制服にそれぞれ着替え終わり、学校の用意が入った鞄を手に部屋を出た。そして階段を下り洗面所へ。二つ並んだ蛇口と鏡の前に立ち顔を洗う(普通は着替える前に行うべきなのだが洗面所は一階にしかない為、仕方がない)。男の冬玖は女である冬璃よりも身嗜みを整えるのが早く終わるので、彼女が顔を覆う泡を流している間冬玖は自分の髪を(
くしけず)
り、顔を拭いている間冬璃の髪を(
)
くのだ。妹の髪の具合は兄の調子の良し悪しで決まる。

洗面所を後にし、二人は玄関に向かう。冬玖は荷物を靴箱に置いて、靴を履いた。紐をしっかりと結び冬璃と向き合う。


『7時前には戻る』
『りょーかーい。無理はしないでね』


ドアを開けてロードワークに向かった兄を見送った後、冬璃はリビングに。其処には誰も居らず、カーテンは閉まり電気も点いていない。まだ双子以外誰一人起きていない証拠だ。カーテンを開けるとうっすら日が上っているが薄暗い。電気を点けた冬璃は朝食の準備をする為エプロンを着て、冷蔵庫を開けた。

6時半になった頃、母親が起きて来る。彼女は眠そうに欠伸を手で隠しながら、かき玉汁の味見をしている冬璃に挨拶をした。


「おはよう冬璃…今日も先を越されたわ……」
『おはよう。母さんは遅くまで仕事してたんだから早起きしなくていいのに』
「母の威厳というものがあってね冬璃ちゃん?」
『お母様は立派なキャリアウーマンでーす』


冬玖と冬璃の母・侑璃は作曲家であり器楽演奏家であり声楽家、つまり音楽家だ。だがそれはあくまで副業で(キャリアウーマンはただの冗談)、更に「家庭第一」「本業に勝る副業はない」「主婦業万歳」という最後がよくわからない格言を掲げているので、偶に仕事が長引いて夜遅くなる、が、言ってしまえばその程度なのだ。因みに冬璃はそんな母に憧れ、教授を受けている。

互いに軽口を叩き合いながら母娘は朝食の準備を進める。母親が皿を出し冬璃がサラダを盛り付け終わった辺りで玄関の扉が開く音がした。そして「『ただいま』」というロードワークから帰って来た冬玖と夜勤明けの父の声。時計を見ると6:50を指していた。母親は冬璃に「行って来なさい」と言い、火にかけている鍋を確認しにキッチンに。『ありがとう』と冬璃は返し、手を拭いてから二人の出迎えに向かった。


『お帰りなさい!』
『ん。ただいま』
「ただいま。今日の朝飯は冬璃か?」
『うん』
『指は大丈夫か?』
『ちゃんと手袋してたし、怪我一つないよ』
「火傷や切り傷がないなら良い。演奏家は手が命なんだからなー」


冬璃が率先して料理をするのは、指に少しでも怪我を負ってしまえば支障が出てしまう職業(副業だが)に就いている母親を気遣って、という意味合いもあった。だが彼女と同じ道を進もうとしている少女にもまたそれは当てはまる。ゴム製で手首までのフィットする手袋をはめて料理をしていたと言っていたが、それでも心配なものは心配だ。そんな事を思う兄と父から気遣われ、冬璃は照れ笑いをした。

父親から荷物と上着を預かり、リビングに戻る。途中、冬玖はロードワークによって掻いた汗を洗い流すべく風呂へ。リビングに着くと冬璃は父親の鞄を隅に置き、上着をハンガーに掛けた。


「幸玖お帰りなさい」
「ただいま侑璃」


挨拶を交わす夫婦。子供が生まれて16年目に差し掛かる今でも名前で呼び合う程仲睦まじい二人だ。夫婦喧嘩らしい喧嘩は見た事がない(あるとしたら一方的な説教くらいである)。

冬璃はいつまで経っても仲良しな彼らに微笑を零し、朝食の仕上げに取り掛かった。


『はーい、それでは今日の「突撃☆天川家の朝ご飯〜スポーツマン編〜」、メニューのご紹介でーす』


冬玖が風呂からあがり父親がスーツから着替えてから、母娘はテーブルに料理を並べた。皆が席に着くと冬璃はニコニコ笑顔を携えてリポーターの真似をする。ドンドンパフパフ〜とセルフ効果音を流す両親(←もういい年)に冬玖は何とも言えない微妙な顔をした。


『菜飯580kcal、目玉焼き(×3)486kcal、ハムサラダ152kcal、サバの味噌煮343kcal、かき玉汁106kcal、計1667kcalになりまーす』
「流石ァ!!」
「素敵ー!!」
『(何だコレ)』


芝居掛かった口調で朝食のメニューと一品一品のカロリーを述べる妹とそれに乗っかり囃し立てる両親。冬璃はまだ良いとして両親のよくわからないハイテンションについて行けない冬玖だったが、妹の『召し上がれ!』という言葉と笑顔で『まあいいか』と流す事にした(因みに先程のメニューは全て冬玖専用である)。


朝食を終え、食器類を全て洗い片付けた後、歯磨きと最後の身嗜みチェックを行う。双子はテーピングを取り出した。冬玖は左、冬璃は右の、二の腕から手の甲にかけて捲き付ける。彼らは別に怪我をしている訳ではないし、怪我の予防という訳でもない。ただ二人は自分の非利き腕を隠しているだけなのだ…二の腕から手の甲にある酷く醜い傷痕を。これは“生まれつきであって、生まれてから負ったのではない”傷痕。こんな誰もが顔を歪めるような腕を見られる訳にはいかないのでテーピングを捲く事にしたのだ。


『準備は?』
『ばっちり。という事で、はい冬玖。お弁当です』
『サンキュ』
『メニューとカロリー言った方がいい?』
『いい。お前の栄養バランスへの情熱を信じてるし』
『あら、ありがとう。でもちょっと残念』
『何処がだ』


てへぺろ、と舌を出した妹。その顔は全然残念そうには見えなかったので冬玖は彼女の額を軽く小突いた。玄関に行き、ロードワーク前に靴箱の上へ置いておいた鞄に弁当を入れる。そして靴を履いてドアを開けた。


『『行って来ます』』
「「行ってらっしゃい」」


*****

双子の朝の習慣と母親の登場と仕事の紹介(少し)と父親(仕事不明)の登場と夫婦の仲良しアピールと朝食メニュー紹介と双子のテーピング事情を全部詰め込んだらどうなるか実験してみました。しにました。


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