第2Q
《今回、最初のゲストに立候補させて貰いました、1年B組2番、天川冬玖です》
「………え?」
「………は?」
スピーカーから聴こえて来た名前にカントクと日向は硬直した。つい最近に聞いたので覚えているのだ。その名前の主はつらつらと言葉を続ける。
《恐らく今朝の出来事で屋上は出禁になるだろうと予測して、こういった形をとらせて頂きました》
今朝の出来事、屋上、出禁。
その言葉を訊いて、カントクと日向の様子に首を傾げていた他の部員もスピーカーの
彼が自分達に関係している人物だという事がわかった。
「(バスケ部入部希望者か!)」
《そういう訳で放送室から失礼します》
***
放送室。
周りを女子生徒に囲まれている中、冬玖はその事を大して気にもせずマイクに向かって話し続ける。この放送は今、運動場や廊下、そして全教室に流れている。紛れもないチャンスだ。今此処で自分の意志を全て吐き出す。
『まず最初に。俺、天川冬玖は男子バスケットボール部への入部を希望しています』
『ですが入部許可を貰う為にはそれ相応の「覚悟」を見せなければならないとの事』
『なのでこの場を借りて、今年の目標を宣言します』
其処まで言って冬玖は一旦言葉を切った。そして息を深く吸い、口を開く。
『1年B組2番、天川冬玖。今年の目標は──』
『──自惚れた天才共を引き摺り下ろす』
「(何する気だ!!)」
普段の冬玖の声はテノールとバスの間ぐらいの高さだ。だが目標を告げる彼の声はそれよりも、低い。そして何処となく恨み辛みが籠められているように聞こえる。
そんな冬玖の声にバスケ部員は勿論、意味がわかっていない他の生徒も戦慄した。その場にいた放送部員など彼の近くにいた筈なのに一気に後退りをし、恐怖で壁際に身を寄せ合っている。
『僻みにしか聞こえないかもしれませんが、俺は「キセキの世代」に良い印象はありません』
『
勝つ事が全て?』
『
勝って当たり前?』
『──腹が立つ』
冬玖は自分の感情が沸々と高ぶって行くのを感じた。
「天才」と呼ばれる彼ら。その才能に胡座をかいて他人を見下すような奴が5人の中にいるなら、冬玖は心底軽蔑するだろう。実際どうなのかは知らない。勿論、日々の努力を怠らない者しかいないのかもしれない。
だが、勝利する事が全てだと言うのなら。
それならば自分は一体、何なのか。
全国中学校バスケットボール大会。
必死に喰らい付いて、喰らい付いて、結局惨敗してしまった試合。
中学校生活最後の夏。
今でも覚えている。悔し涙を流すチームメイト、呆然とする親友、そしてその様子を歯牙にもかけず冷めた瞳で次の試合に臨む奴ら。
Genius is one percent inspiration, 99 percent perspiration.
天才は1%のひらめきと99%の汗。
「発明王」トーマス・アルバ・エジソンは嘗てそう言ったらしい。
『「キセキの世代」がエジソンの言う「1%のひらめき」を手に入れた奴らなら、』
『俺は「100%の
汗
」で迎え撃つ』
努力を99%で甘んじていては駄目だ。それだけで足りる訳がないのだ。
何より自分は「真の天才」を知っている。
自分が積み重ねて来た努力を物ともしない天才。
「
この存在にだけは絶対に勝てない」。
冬玖はそれが諦めではなく確固たる事実であるとしてその人物の特異さを受け入れた。
彼は「キセキの世代」以上の天才と対等に生きる事を決めた。
だから「それ以下」の奴らに負ける訳にはいかないのだ。
───100%の力を以て「キセキの世代」に打ち勝つ。
***
相田リコは走っていた。つい先程まで同じ部員達と共にいたのだが、居ても立っても居られなくなったのだ。
『「キセキの世代」がエジソンの言う「1%のひらめき」を手に入れた奴らなら、』
『俺は「100%の汗
」で迎え撃つ』
数分前の冬玖の言葉。あれはまるで、
「(殺意のような闘志……!!)」
あそこまでの覚悟と決意を示してくれた人間を放置するなど勿体無い。論外だ。そうとなれば善は急げ。彼のいる放送室まで脚を緩める訳にはいかない。寧ろもっと速く。
《この放送が終わり次第、2−Aに向かいます》
放送室は南校舎。この渡り廊下を抜けて、
《もし俺の入部を認めてくれるのなら、》
階段を駆け下りて───此処だ。
カントクは放送室の重たい扉の取っ手を掴んだ。そして、
《この入部届けを受け取って貰いたい》
一気に開け放つ!!
『!!』
中には大きな音を立てて開かれた扉に驚いた顔をする冬玖と放送部員がいた。カントクはかなりの足音を立てて走って来ていたが、放送室は防音設備が整っている為外の音は全てシャットアウトされていたのだ。
此方を向いて少し目を見開いている冬玖に近寄り、カントクは告げる。
「合格よ」
『え、』
「天川冬玖君、男子バスケットボール部への入部を歓迎します!!」
これからよろしく!!
彼女はそう言って手を差し出す。そんなカントクの目を
心
の通った目で見つめ返し、冬玖は力強く握り返した。
そうして、彼の努力を積み重ねる日々が始まる。
*****
後日、部活にて。
「『キセキの世代』いるトコと試合…組んじゃったっ」
『は、』
「………!」
「……!?」
「マジ……!?」- 15 -