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第3Q


サインを求め群がっていた女子を全て捌き終え、黄瀬は舞台から飛び降りる。何で此処にいるのかという問に彼は練習試合の相手が元チームメイトの進学先という事を思い出し、挨拶に来たのだと言う。


「中学の時、一番仲良かったしね!」
「フツーでしたけど」
「ヒドッ!!!」


……少々食い違いがあるようだが。
部室から持って来た雑誌を見れば彼の事が詳しく特集されている記事を発見する。

───中学二年からバスケを始めるも、恵まれた体格とセンスで瞬く間に強豪・帝光でレギュラー入り。
他の4人と比べると経験値の浅さはあるが、急成長を続けるオールラウンダー。───

この記事に書かれている「中学二年から」という部分に周りは驚愕した。帝光程の強豪校には小学校からバスケをやっている者が多くいるはず…否、それよりも前からやっている者もいるだろう。だがその多くの経験者がいる中で中二という中途半端、寧ろ遅いくらいの時期に始めた黄瀬。そんな彼が10年に一人の逸材だとは、その時誰が予測していただろうか。

しかし記事の内容を聞いて驚く部員に黄瀬は大袈裟だと慌てる。「キセキの世代」なんて呼ばれるのは嬉しいけど、つまりその中で自分は一番下っ端ってだけ、と。


「だから黒子っちとオレはよくイビられたよ」
「ボクは別になかったです」
「あれ!?オレだけ!?」
『(何だこの茶番)』


またもや発生した食い違いに黄瀬は涙する(黒子の言い分としては彼がテキトーな事を言っているだけらしい)。その様子を冬玖が白けた目で見ていると、視界の端で火神がボールを構えているのが見えた。そしてそのボールを黄瀬に向かって勢いよく投げつける。反射的にキャッチした彼に火神は少し相手をしてくれと言う。日向もカントクも何を言ってるんだと火神を見た。冬玖に至っては黄瀬の次は火神かと、状況を引っ掻き回す人間が変わった事で諦め傍観モードに入った。

そうして始まった1対1。黄瀬の「いいもん見せてくれたお礼」という言葉に嫌な予感がした黒子。結果は予感的中で。


「彼は見たプレイを一瞬で自分のものにする」


模倣などというレベルではないそれは誰の目から見ても規格外だった。火神もすぐさま反応するがそれでも押し負けてしまう。キレもパワーも明らかに黄瀬の方が上だった。

黒子はたった数ヶ月会っていなかった彼の才能(
センス)
が予想を遥かに超える速さで進化している事に驚きが隠せない。最早別人の域だ。

火神をあっさり退けた黄瀬は拍子抜け過ぎて挨拶だけでは帰れないと呟いた。


「やっぱ黒子っちください」


海常に来て、また一緒にバスケをやろう。

黄瀬の突然の勧誘に周りは開いた口が塞がらない。

曰わく、自分が尊敬している黒子がこんな所(・・・・)にいるのは宝の持ち腐れだ、との事。しかし黒子は上げて落とすという鬼畜な文で断った。


「らしくねっスよ!勝つ事が全てだったじゃん、何でもっと強いトコ行かないの!?」
「あの時から考えが変わったんです。何より火神君と約束しました」


───「キセキの世代」を倒すと。

かつてのチームメイトを見上げ、黒子は宣言した。黄瀬の学校に行く気も、一緒にバスケする気もない。黄瀬だけではない「キセキの世代」全員を敵とし、新しく出来た仲間と共に日本一を目指すと。真正面から。


「……やっぱ、らしくねースよ…そんな冗談言うなんて」
「ハハッ…ったく、なんだよ……オレのセリフとんな黒子」
「冗談苦手なのは変わってません。本気です」


今此処で、彼らは決別したのだ。


『……話は済んだか?』


……と此処で、睨み合う三人を傍観していた冬玖が気怠げに声をかける。張り詰めていた空気が一気に解き放たれ、蚊帳の外だったカントク達は息を吐いた。冬玖は腕を組みながら相変わらずの無表情で黄瀬を見る。


『話は済んだか?済んだな?済んだだろ?じゃあ帰れ』
「ハァ!?ていうか何その三段活用!?」
『うっせーよ5分で帰れっつったろもう30分は過ぎてんぞ』
「ホント何なんスかオレに突っかかって来て!!」


図体のデカい男二人が言い合いを始めた。

日向達は冬玖の無表情から溢れ出る苛々オーラに戦慄が走る。やっぱり不良じゃねぇか。

だが思えば彼は火神を足蹴にしたりラリアットを喰らわせたりしていたが、それらは全て火神が気に入らないからではなく軽いノリであってじゃれ合いのようなものだった。それにあの時のミニゲームで冬玖はチームワークを築き、周りのサポートまでやっていた。

という事はつまり、彼は見た目は兎も角中身は面倒見の良い普通の男子生徒なのか。

……だが現在進行系で他校生に絡んでいる。


『さっきの話聞いてりゃ、お前は未練タラタラの恋人か女々しすぎるだろゴールデン●ンバーかよ』
「めっ……?!」
『(黄瀬が)女々しくて辛いのは寧ろこっちだっつの察しろ』
「意味わからない喩えやめてくんない?!」
『五月蝿ぇよCtrl+C、一々叫ぶな』
「コントロールシーって?!」
『何お前Mac派?Command+Cじゃなきゃ認めねぇってか?』
「コマンドシー?!え?!」
『Mac使った後にWindows使うと間違えてAlt押すのどうにかならねぇのか』
「オッ、オルト?!」
『取り敢えずお前は床にCommand+Vな』
「ブイ?!?!」

「ねえ、何の話???」


某歌合戦にも出場した某グループの話から最終的に何故かコンピューター用語を使って黄瀬に絡む冬玖。Ctrl+C、Command+Cはコピー…要するに黄瀬の事。そしてCommand+Vはペースト…つまり何が言いたいかというと、『お前五月蝿いから床に叩き付けるぞゴラァ』だ。終いには胸倉を掴み出したので日向達は慌てた。


「オレ、アンタに何かしたっスか!?」
『ああ、悪いが俺はお前に対して超個人的な恨みがあるんでね』
「超、個人的……!?」


『──よくも俺の妹にちょっかいかけてくれたな』


彼のドスの効いた声によりその場が一瞬で凍りついた。目つきの悪い冬玖の瞳は完全に瞳孔が開いている。彼は怒っていた。素晴らしい程に、怒っていた。


あ、終わったなコレ。


周りは、冬玖に妹がいたのかとかその妹と黄瀬は知り合いなのかとかていうか何されたのかとか、その他にも諸々気になる点が満載だった…が、取り敢えず今言えるのは他称「キセキの世代」黄瀬涼太が自称「平均以上」天川冬玖の精神攻撃に完全敗北したという事のみである。


*****


『そういえば何、お前らいつあんな約束したんだ?』
「ミニゲームの後です」
『俺も誘えよ』

「……黄瀬は…」



*****

拭いきれない強制終了感


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